小説:暴走腸特急 #3行完結選手権 #タイタン杯
歩行介助が必要な高齢女性の患者さんがナースコールで「おトイレ」と言うものだから、私は部屋へ急ぎ、患者さんを支えながらトイレへ向かう途中、ギュルギュルギュルギュルという音を聞いて、患者さんかしら?と思った途端、自分の腹が急激に痛むのを感じ、おかしいな、と思ったところ襲われる猛烈な便意……これは異常事態だ、と思いつつ、患者さんを置いていくわけにもいかないし、こんなときに限って患者さんは歩くのが遅いし、ちょっと、ばあさんもう少し速く歩いてくれよ、私のほうが漏れそうだよ(患者さんをばあさんなんて呼んではいけません、という脳内の叱責は無視)などと思いつつ肛門を必死に締めて、大丈夫大丈夫きっとガスよ、おならよ、そう、おならが腸で動いているだけよ、と言い聞かせ、背中を伝う脂汗を無視し、おばあさん患者さんをトイレに座らせ、ふっと一息……つくと漏れそうなので我慢して、ここから職員用のトイレに行くにしても、一度ナースステーションを通って外廊下に出て職員用のトイレまで歩いていくまで私の肛門括約筋は保つのかしら……という私の心配をよそに、おばあさん患者さんはのほほんと用を足し「あら、トイレットペーパーがきれてるわ看護師さん」なんて言うから「あら本当ですね」などと言いながら棚のトイレットペーパーを取ろうとしゃがんだ瞬間、一瞬ゆるんだ肛門括約筋からにっちもさっちも行かなくなった私の分身たちが今にも、すっからけっち〜!とこんにちわしそうになったので、慌てて思わず「ちょっとすいません!立っててください!」と、用を済ませたおばあさん患者さんを手すりに捕まらせて立たせて私は白衣とパンティをおろし患者さん用のトイレに座ったのです。
ぶふおおおおおおおおーーーん、と暴走族の走り去るバイクの騒音のように、はたまたアルプスの山脈に響きこだまするトランペットのように、壮大な音をたてながら私は大きい物を排泄し、間に合った安堵と、おばあさん患者さんの前で排泄してしまった羞恥と、今の爆音をおばあさん患者さんのせいにできるわ、という姑息な思いで、頬を赤らめました。
おばあさん患者さんは、目を丸くして私を見つめ「今のはファファファソラー!ね!」と言いますのも、おばあさん患者さんは絶対音感の持ち主なのでした。
《おわり》
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