作家デビューに年齢は関係あるのか?
だいたい週一くらいで更新していこうと思っているこの「あたふた日記」ですが、ちょっと気になることを耳にしたので、急遽記事を書いています。
それは、小説家としてデビューするのに年齢は関係あるのか、ということです。
「自分が中年になってきて、小説家デビューを目指しているのにまだ叶っていない……どうしよう、時間がない」
そう仰るご意見を聞きました。正確な前後の文脈がわからないので、もしかしたらこういう意味じゃなかったのかもしれません。本当に物理的に時間がないのでしたら私の話はまったくの的外れなので、ごめんなさい。(ご病気などで身体的なタイムリミットがあるとか、仕事がとにかく忙しくて書く時間がない、とか、そういう話でしたらごめんなさい)(ただ誰かに話を聞いてほしかっただけでリアルな事情が聞きたいわけじゃない、ということでしたら、スルーしてください)
デビューした人間が、まだしていない方に向けて何か書くと、えらそうに聞こえるから良くない、と聞きます。だから、書こうかどうしようか迷ったのですが、やっぱり書きます。なぜかというと、私もデビュー前、公募に出しているときに、まったく同じように思っていたからです。
こういう言い方は良くないですが、デビューするなら若い人のほうがいいのだろうと思っていました。若々しく瑞々しい文章、きらきらした新人。素敵です。ですから「作家 デビュー 遅い」「小説家 デビュー 年齢」などで検索したことは数えきれません。活躍なさっている作家さんのデビュー年齢が自分より年上だと、なんとなく安心したりしていました。逆に、お若い方がデビューなさると「やっぱり……」などと焦っていました。長い時間出版社さんに貢献できる人のほうがいいに決まっているし、こういう考え方は好きじゃないのですが、「40代のばばあより20代の若い女の子のほうが見映えがするし話題性もあるだろう」とも思っていました。小説に対するひどい冒涜ですが、でも世の中なんて実際そんなもんだろ??と思っていました。今思えば、焦っていたし、僻んでいたし、何かのせいにしたかったのかもしれません。
だから、デビューが決まったとき、正直に編集者さんに言いました。
「私、もう40代ですけど、大丈夫なんですか? もっとお若い方が受賞したほうが良かったんじゃないかな、と思っています」と。不安なことは全部ちゃんと編集者さんに相談することにしているので、変な疑問だったかもしれませんが、正直に伝えました。
そのとき、私の担当編集者さんと、その上司にあたる編集者の方に言われことで、私は自分の年齢が気にならなくなったのです。
(もしかしたら、不安がっている私をなだめるために言ってくださったことかもしれませんし、どの編集者さんも同じように言うわけじゃないかもしれないです。あくまでも、私はこう言われた、という話として読んでください)
「秋谷さんくらいの年齢だからこその強みがあるから、何も気にしないでいいです。逆に、年齢はメリット、武器になると思ってください」ということを言われました。
詳しいことを書きますと……
学生の方や社会人経験の浅い若い方でも、デビューする人はいらっしゃる。でも、のちに苦労する方もけっこういらっしゃる印象。中年と呼ばれる年齢の、社会人経験をある程度積んでいる人のほうが、書き続けるという意味では強い人が多い。
それはなぜか。小説というものは、どんなジャンル、どんな内容であれ、結局は「人間」を書いている。中年と呼ばれる世代は、良い人間も悪い人間もたくさん見てきているし、うれしいことも嫌なことも充分経験してきている。理不尽な思いに歯噛みしたり、要領のいい若手に抜かれてくやしい思いをしたり、あるときは裏切られ、あるときは助けられ、人間にもまれている時間が長い。
つまり、年齢のぶん、書ける人間の深みや幅が広がる。それは、小説の深みにつながるし、おもしろさになる。もちろん、お若いうちにデビューなさって、そのまま快進撃を続けてバンバン書いてガンガン売れている方もいるし、もちろんそういう方の書く人間が浅いわけではない。でも、実際に酸いも甘いも経験してきている大人のほうが、人間に対する解像度が高く、人生の脂がのっている。そこに書くアドバンテージはある。
人間の幅もそうだけれど、年齢の幅もある。20代の人が40代の人の苦悩を想像するのは難しいけれど、自分が40代になっていれば、20代はすでに経験済み。記憶という武器もあるということ。自分の20代のことを思い出せば、苦々しい青い若い思いも書くことができる。繰り返すけれど、20代でも40代の人の気持ちを書ける人もいる。でも、経験している人のほうが書きやすい、ということ。
このように、年齢は確実にメリット、強み、武器になる。だから、小説家デビューするのに遅いということはない。
ということを、デビューが決まってすぐに言っていただきました。
私は、しょっちゅう石橋をまったく叩かずに渡るような浅はかなヤツではありますが、勉強や仕事に対しては基本的にコツコツ地道に一歩ずつ派です。天才タイプではありません。ですから、自分の年齢やそこに付随する経験が強みになると言っていただけたのは、すごく心強かったですし、頑張ろうと思えました。
たしかに、20代のころの私より、40代の今の私のほうが、人間にもまれてきたと思います。つらいことも、悲しいことも、うれしいことも、経験したと思います。失ったものもありますし、得たものもあります。
だからといって、今の私に深みのある人間が書けるのかどうかはわかりません。でも、20代の自分と今の自分を比べたら、今のほうが書けるかもしれない、とは思います。大人は、よくも悪くも、すでにいろいろ悟っています。その悟るにいたった経験を、書くことに使えるのです。もう悟っているぶん、まだ悟っていない人間を客観的に書くことができます。また、今の私がまだ悟り切れていないことを、もしかしたらあと10年たったら悟っていて、書けるようになるかもしれません。つまり、小説を書くにあたって、年齢はデメリットではなく、武器なのです。
結論としては、作家デビューに年齢は関係ありません。
これは、私がデビューしてすぐに不安がっていたから、安心させるために編集者さんが言ってくれたことかもしれないです。でも、私は信じています。
長々と書いてしまいました。
えらそうに聞こえたらごめんなさい。
でも、小説は、年齢や性別で評価されていいものではないと思っています。若いから、中年だから、高齢だから、かわいいから、イケメンだから、話題性があるから……そんなことで小説の良さはくつがえりません。実際、覆面作家さんもいらっしゃいます。どうか、ご自分の年齢などを気になさらず、それは逆に武器なのだと、強みを持っているのだと思い、楽しく書いていただけたらと思います。私も、日々精進です。年齢の強みを生かしながら、自分の人生で経験した理不尽なことも悔しかったことも泣くほどうれしかったことも、小説にぶつけていきたいと思います。
いちクリエイター仲間として、お伝えしたくて書きました。これからも一緒に頑張りましょう✨
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