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一巻の苦労話(建物編)

『ナースの卯月に視えるもの』は私の初めての書籍化作品だったので、苦労はたくさんありました。簡単なことなんかひとつもなくて、どれをとっても大変だった気がします。

なかでも、自分の書いていることって文章でこんなに人に伝わらないんだ……という苦労が大きかった……ので、ひとつ紹介させてもらいます。

小説というのは、文字だけで情報を描写するから、読者さんの頭のなかに、ときには全員違うものが想像させると思う。それは小説のおもしろさだし、良さだと思う。たとえば登場人物だって「黒髪の清楚な美少女」とか書いたとしても、なんとなく思い浮かべる人物像は似ていても、全員同じ顔になることはない。それが、小説の醍醐味だと思う。
でも、同じものを想像してもらわないと困るものもある。たとえば、建物。この場所からは見えないはずだ、とか、どこに誰がいてどこから見ているの? という具体的な想像ができないと、話が矛盾してしまう。というか破綻してしまう。だから、建物はちゃんと書かないといけないんだけど、それがこんなに難しいとは……💦こんなに書けないのか……と、本気で不安になりました。

内容には触れないけど、あるマンションを書きたかったんですよ。マンションがあって、その一階の部屋に女の子がいて、主人公がそれを発見する。簡単にいえばそんなシーンなんだけど、そのマンションが私の想像通りに書けない。

最初は、L字型マンションで駐車場があって、部屋の前に外廊下があって、エントランスがあって……みたいなイメージでした。それを文章で書いて提出したんだけれど「建物と廊下と駐車場と部屋とエントランスの位置関係がわからない」と編集者さんに言われて、こんな感じです↓と絵をおくる。

絵が下手なのは大目にみてね。文章でも伝わらないのに絵も下手ってやばいんだけどね。

「廊下の外にあるのは何ですか?」
「外階段です」
「外階段……?」
みたいなやりとりがあって

編集者さんから「文章で読むとY字の建物が思い浮かびます」と言われる。
編集者さんの絵はもっと上手だったけれど、どうやらこんな建物になってしまっていた。↓

本格ミステリに出てきそうな、現存しなさそうな建物(笑)

「いや、Y字じゃないです、L字です」と相談しながら

「卯月が部屋をのぞくのはどこから?」
「こうです!」
とまた絵をおくる。

小説家なら文章で説明せい!と思いますよね。私も思います。でも、伝わらないから絵で描いて共有するんです💦

「文章だと、部屋と窓と木とフェンスの位置関係がわからない」と言われ、めちゃくちゃ書き直す。途中で、ベランダの外には2mほどの庭があり、など具体的な数字が出たり、フェンスの下にツツジを咲かしたり消したりした(笑)マンションの部位それぞれに名前があることも知った。
フェンスと木と卯月と窓とエントランスの位置が、私の中には明確にあるのに、それが文章にできない。こんなにも難しいものか……と本当にお手上げ~となりました(笑)

結局、このマンションがL字である必要はなく、書きやすい直方体のマンションにし、ごちゃごちゃ書いていた説明を大きく省いてシンプルにしたら、一番わかりやすくなった、ということで、案外シンプルが一番伝わるのかもしれない……と勉強になった新人でした💦

このあと、別の章で「女性が隠れている納屋」という建物問題も出てきました(笑)その話は、また今度(笑)

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