〆好きな人とキスがしたい
「そんなのいいからさ、ね、ベット行こうよ」
私は身体を安売りしてしまった。
安売りしないと得られない経験もあるのだ。
でも、最後には罪悪感と涙しか残らなかった。
*
好きな人に振られて、マッチングアプリで出会った人にファーストキスを取られた私は、完全に自暴自棄になっていた。
「私、何してるんだろう」
友人の中には、
5月から恋人と同居するために両親に挨拶をした人
最近彼氏ができて、遠距離だけど頑張っている結婚して、赤ちゃんを産んだ人だっている、
私は21年間、恋人が居ない。
まだ若いと言う人もいるけど、
私にはそれが焦りでしかないし、コンプレックスで。
ただ、経験が欲しかった。
*
友人の紹介で出会った人と飲みに行った。
2歳年上の大学院生だった。
目が細くて色白で、韓国人みたいな顔立ちだった。
今までの私の恋愛のことを話して、
彼も2か月前に3年付き合った彼女と別れた話を聞いた。お互いお酒も進み、酔っていた。帰り道の橋の上で手を繋がれた。
「ぎゅーしていい?」
「いいよ」
「ちゅーしていい?」
「いいよ」
顔はタイプではなかったし、
性格もあまりよく知らなかったが
話しを聞いてくれたし、趣味もあったから
別にいいと思った。正直もうどうでも良かった。
キスは好きな人としたほうがいいよ、なんて
ついこの間まで友人にアドバイスしていた私は
どこに行ってしまったのだろうか。
「家、くる?」
「いいよ」
もしかしたらもう、私には体しか男性が見てくれる場所がないのだと思った。
彼のポケットに入れられた私の手は、一向に暖かくはならなかった。
「その格好でいいの?なんかジャージ貸そうか?」「うん、ありがとう」
アクセサリーを外すときに
片耳のイヤリングを無くしたことに気づいた。
一目惚れで購入して、
大事にしすぎて、まだ2回ぐらいしかつけてない
淡い紫色と白のイヤリングだった。
「イヤリング無くした」
「あ~、俺が抱きしめたときに落としちゃったかな」「まだ、2回しかつけてないのに…どこで落としちゃったんだろう、部屋に落としてるとかないかな」
そう言って、床を見渡す私に、
「どうだろうね。そんなのいいからさ、ね、ベットいこうよ」
そう彼は言った。
「そんなの?」
「だって、もう仕方ないじゃん?」
「…まあ、そうだね」
この人とは価値観が合わないと思った。
そんなに大事なイヤリング、
私はなぜ今日に付けてきてしまったのだろう。
後悔しかなかった。
ベットに入り、キスをした。
力任せで雑なキスだった。
私は好きな人とキスをしたことがない。
「マッチングアプリの人よりいい?」
「いいよ」
いつだか覚えた社交辞令が役に立った。
「凛花ちゃんと今日初めて会って話したけど、俺は付き合ってもいいと思ってるよ」
「私のこと好きなの?」
「…あ~そういわれたらどうなんだろうなあ」
彼は、好きでなくても付き合えるようだ。
触られるのが凄く嫌になった。どうでも良かったし、どうにでもなると思っていたのに、それ以上は好きな人としたかった。
「ごめんなさい、これ以上は出来ない」
「あー…ごめん、分かったよ」
その後は何もしてこなかった。
そのまま寝る彼に背を向けて、
こっそり泣きながら寝た。
「おはよう」
目が覚めると、酔いも冷めたようで
罪悪感だけが私の心に残った。
私、何してるんだろう、馬鹿だ。
自分で言うのもあれだが、
私は真面目で生きてきた。
友人にも昨日みたいな事はやめなさいと
説教をするタイプだった。
そんな自分が誇らしかった部分もあった。
なのになぜ、今、好きじゃない男性と。
彼はコーヒーを入れてくれたが、
私は、仕事がある、と一口だけ飲んですぐにアパートを出た。
替えのコンタクトも眼鏡も持っていなかったので
ぼやけた視界のまま、1時間ほど歩いて家に帰った。
帰りにイヤリングを探したかったが、
何も見えなかった。
私の手元には片方だけのイヤリングが残って、
それからはもう、引き出しにしまってある。
イヤリングを見ると思い出してしまう。
身体が汚れてしまったような気がする。
「こんなはずじゃなかったのに」
自分が悪いのに寂しさのせいにしたかった。
全て私が、寂しさを他人で埋めようとしたせいだった。
その後、彼から何度か連絡があったが
彼氏ができたと嘘をついて連絡を絶った。
「好きになりかけてたんだけどな。もっと可愛かったらな、まあ、彼氏に釣り合うように頑張ってね」
私が悪い。
この嫌味は、人の心を軽く扱った私への罰だった。
申し訳ないとは思ったが、もう思い出したくもなかった。
*
私は恋愛が苦手だ。
どうしてもうまくいかない。
たくさん振られたし、思わせぶりもされたし、
こうやって、馬鹿な事だってした。
好きになった相手は悪くない。
私が本当に不器用で極端なだけなのだと思う。
昔から、好きな人ができるとその人のことしか考えられなくなる。
今だってそう、気になりだすと、
ラインまだ来てないとか、なんて返したらいいとか
文章長すぎるかもとか、何分おきに返したらいいかとか、すぐ返したら引かれるかなとか思っても、
結局我慢なんかできなくて、すぐ返信してしまう。
なんとも思ってないときは、気にならなかったのに
好きになると脳みそがその人のことでいっぱいになる。
早くもっと相手を知りたいし、
私のことも話したい伝えたい。
病気なんじゃないかと思う。
妄想力だけは人一倍あって
この人と今度会えたら、あれ食べてこれしたい。
その前に新しい服を買って、美容院に行って
ヘアコロンをつけて行ったら、
かわいいなんて言われたりして。なんて、
脳みそはお花畑状態。
好きな人が自分を好きだなんて
そんなに幸せなことってないよ。
そんな奇跡に近いこと自分にいつか訪れるのかな。
私は、好きな人とキスがしたいよ。
つづく