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〆最高の軽トラ運転手

「スポーツカーは磨けば磨くほど綺麗になるけど、軽トラはいくら磨いても軽トラでしょ?」

私は軽トラかもしれない。と思った。

いつだったか曖昧だけど、数年前に何かの番組で、

「ブサイク芸人×美人芸人」

みたいな企画をやっていて、
そこで、ブサイク芸人側の方が言っていた。

「私はブスだから、努力しても美人にはなれないと悟ったんです!真っ赤なスポーツカーは磨いたら、どんどん綺麗になるけど、ただの軽トラはいくら磨いても軽トラじゃないですか。
ブスも同じなんです!磨いても限界がありますよね?」

その後に何か、
ポジティブな言葉を言っていたかもしれないけど
私は、直ぐにチャンネルを変えてしまった。
なぜだか、その言葉が自分に言われているようで、
悲しくなったからだ。

私は父に容姿のことを言われるのが嫌だった。
小学の頃、車で買い物に行ったとき
日の光がさして、眩しい…と目を細めたら
それを見た父が、

「ブサイクな顔。」

とつぶやいた。

高校に入って、化粧を覚えた。
化粧をしている私を見て父は

「そんなことしても変わらないのに。」

と言ってきた。

それが少しずつ積み重なって

「"もしかして、"私ってブスなんだ。」

小学の時から薄々思ってきた。

大学に入ってからも、
いつもナンパされるのは、友達のほうだったし、
男性とご飯にいっても
いつも連絡先を聞かれるのは、友達のほうだった。
その"もしかして"が自分の中で
確信に変わるのは遅くはなかった。

高校生の頃、好きな人ができた。
たった一駅の電車通学を始めた私が、
その中で、一目惚れをした。
漫画みたいなシチュエーションにどきどきした。

彼は身長は165㎝ぐらいで小さめ。
にきびが頬に何個かあって、
くせ毛でマッシュヘアの男の子だった。
私と同じ制服を着ていて、
エンブレムは同じ色だった。

高校生活が始まると学校でも何度か見かけるようになった。
私も友達ができて、
友達と一緒に電車を利用するようになった。

「あの人、かっこよくない?」

駅のホームで友達に話してみた。

「え!私同じ中学だったよ!……ねえ!」

友達が彼に声をかけた。
心臓が爆発するかと思った。
凛花っていう子!と、紹介され

「あ、こんにちは。」

思ったよりも声が高くて、好きな声だった。

友達は部活を始めて、
私は1人で駅を利用するようになった。
彼もいつも1人音楽を聴きながら
ホームに立っていた。

「あ、こないだの…」

駅の階段から降りてきた私を見つけて
イヤフォンを外しながら彼が話しかけてきた。

「あ…はい…」

人見知りな私は言葉が出てこなかった。

「お菓子食べる?」
「いいの?」

うん、って渡してきた彼の手はカサブタだらけで
皮がむけて痛々しかった。

「手、どうしたの?」
「あぁ、アトピーだからさ。
バンドやってるんだけど、手汚いのは致命的だよね」

彼は苦笑いして言った。
それからは、よく話すようになって
冗談で笑いあうような仲になった。
お互いの恋愛の話しもしたし、
毎日連絡を取り合って、
次の日学校で会うと

「昨日の話さあ…」

って、会話が止まらなかった。
彼は、電車で見かけたあの時のイメージとは逆で
結構自分のことを話すタイプだったし
生徒会にはいったり、表に出るような人だった。
学生バンドに入ってギターをしていて
音楽の話になると、更に饒舌になった。
電車に乗って音楽を聴いていると

「何聞いてるの?俺、イントロで当てれるから。」

って、イヤフォンの片方を取られて
2人で音楽を聴いた。
わ、これ少女漫画で見たやつだ、
って1人でどきどきした。

音楽に夢中な彼が好きになった。

バンドのため、とカサブタでざらざらな手に
丁寧に塗り薬を塗る姿が愛おしく感じた。

「今度、ライブするんだけど、見に来ない?
小さいけど、」
「え…やめとく…」

当時の私は、人が多いところ、
行ったことがないところが苦手だった。

「なんでよ」
「人多いとことか苦手だし…」
「大丈夫だって!
俺がチケット代払うから、友達とでも来なよ」
「うん…」

友達とライブに行くことになった。

学生バンドの集まる企画で
同い年ぐらいの人から、大人までがたくさんいた。
すごく緊張した。
でも、彼のバンドが演奏を始めた瞬間。

かっこよすぎて、緊張はすぐに消えた。

こんなかっこいいことを、
勉強の合間にやってたのかよ。
もう、かっこいいってフレーズしか出ないくらい
語彙力が無くなるくらい
キラキラしてて、かっこよかった。

本人には言えなかったけど。

その後もライブに何回か行って、
バレンタインデーライブに行った時の事。
友達と、
「チョコ作って渡さない?」って話なって、
お互い別々で作ってライブ後に彼に渡した。
友達は生チョコで、私はガトーショコラ。

人生で初めて好きな男の子にチョコを渡した。

その日の夜に友達から連絡がきた。

「チョコ美味しいって連絡来たよね?
作って行って良かったよね!」

私には特に彼から連絡は来てなかった。

「え?なんも連絡きてない」

その友達は、
バイト先でも良くお客さんから、
連絡先をもらうくらい綺麗な子で
自分でも自分の綺麗さをよく理解している子だった。

「凛花ちゃんが、あの人を好きってことは知ってるんだけど、こないだもラインで可愛いって言われてさ、困ってるんだよね、私可愛くないし、変なこと言うよね。」

私が欲しい言葉を彼女は要らないと思っているようだ。

私も頑張ってチョコ作ったんだけどなあ。
生チョコなんて生クリーム入れて固めただけじゃん。
メレンゲ何回も失敗して何回も作り直したんだこっちは!
可愛かったらなんでもいいんだよね。
と思った悪い自分を抑えて、

「貴女、本当に可愛いから。」

その日、いくら待っても彼からの連絡はなかった。

次の日、彼から連絡がきた。

「チョコありがとう!」
「ライブお疲れ様、どういたしまして!」
「あのさ、俺、あいつのこと気になってるんだよね」

ああ、だと思った。

可愛いもんね」

「超可愛い、俺のバンドのメンバーも可愛いって言っててさ、あんな可愛い子とどこで友達なったの、って」

悔しかった。

何がって言われたらうまく整理は出来なかったんだけど。
私は?私のことはどういう風に思ってるの?
悔しくて悲しくて、
やっぱり私はブスで、軽トラで
スポーツカーにはなれないんだな。

それからライブには行かなかったし、
彼は卒業してから東京に行ってしまった。

そして私は大学生になり、
飲みの席で幼馴染に
ぽろっと愚痴をこぼした。

「私は軽トラだからさ。」

軽トラ?と友人は言った。

「スポーツカーは磨いたら、どんどん綺麗なるでしょ~。軽トラは磨いても所詮軽トラ。ブスはいくら磨いてもブスだからさ~」

幼馴染は少し考えて、

じゃあ、運転手の運転技術上げるしかなくない?

え?と言った私に

「だって、いくらかっこいいスポーツカーに乗ってても運転が下手だったら車に傷は付くし。最悪、壊れて動かなくなることもあるでしょ?軽トラだって丁寧に乗っていたら、ずっと乗っていられるし、選んでくれる人ってたくさんいるんじゃないかな

一気に救われた気がした。
同時に、

容姿で何かを諦めたり、
物事を判断していた自分が恥ずかしくなった。

誰かと比べて、私は可愛く無いからだめだった、
そうやって全て容姿のせいにしていた。
真剣に物事に向き合う前から、
諦めていたこともあったかもしれない。

私は友達に恵まれている、

「そうだよね、ありがとう。
自分じゃその発想に気づかなかったよ。」

幼馴染は

自分で自分の価値を下げないでね

優しく話してくれた。

私は今でも、可愛い子を見ると
ああ、私もこんな風に
顔の個々のパーツがこうで、
身体のここがこうだったらな、って
思うことはあるし、
1度くらいみんな思ったことあると思う。

「世の中見た目じゃないよ」なんて
そんなこと私は言いません。
ただ、なんか辛くなったら、

私は最高の軽トラ運転手

そう心の中で私自身に優しく話すようにしています。

いつかその最高の軽トラに、
大好きな人を乗せてドライブができるように。

                     つづく

































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