〆ゆっくりしていられない
「俺、今付き合えそうな人がいて
だから、もうこうやって2人で会ったりできないんだ。」
私はそう言われ、失恋しました。
*
私は学生の頃にスーパーでアルバイトをしていた。
彼は、同じアルバイト先の1歳年下の大学生。
身長は180センチくらい、髪は茶髪のくせっけ。
黒いPコートにエンジ色のネクタイ、黒いスキニーで
「忘れ物しました」
と休憩室に入ってきた。
走って戻ってきたのか、くせ毛の髪は乱れていて
息も荒かった。
そんなに急がなくても、忘れた書類は逃げないよって思いながら
「おつかれさま」
可愛いなあと思った。
*
アルバイト先のラインのグループで、
彼の連絡先を追加して、
「急に追加してごめんね!よろしくお願いします
「いえいえ!こちらこそよろしくお願いします!」
これで会話終わりかなって思っていたら、
「昨日誕生日だったんですね!おめでとうございます!」
私の誕生日から会話が始まり、
毎日やり取りをするようになった。
会話の内容は毎日他愛もないことで、
テストが大変とか、スノボが好きだとか
桜が綺麗だとかで写真を送りあったりした。
「敬語、使わなくて大丈夫だよ」
「分かりました!って、なんかタメ語って難しいね」
「使いやすいほうでいいよ」
何回か飲みに行ったりもして、
彼はお酒が弱いことも分かった。
1杯目で顔が赤くなる彼に、
「大丈夫?ゆっくりでいいんだよ」
余裕です、っていつも説得力がなかった。
帰りはいつも歩いて帰った。
「送ります」
いつも家の近くまで送ってくれた。
彼と並んで歩くとき、どきどきして
彼のなびく癖毛に触りたいと思った。
あぁ、もっと私の家が遠かったら良かったのに。
特に手を繋ぐとか、
恋人みたいなことにはならなかった。
ただ、いつものラインのやり取りみたいに
他愛もない会話をして帰った。
*
夏になって、彼のラインの返信が遅くなった。
毎日来ていた返信は5日来ないこともあった。
彼は、他県から来ている大学生だったので、
夏休みの帰省で楽しんでいるんだなと思った。
1日1通でも嬉しかった彼からの通知が来なくなった。
通知音が鳴るたびにすぐにスマホを見てしまう自分が嫌になって、
通知をOFFにした。
*
10月になった。
彼が帰ってきたことを知り、
9月は彼の誕生日だったので、プレゼントを渡した。
彼女でもないし、
なにを渡したらいいか分からなかった。
でも、何か目的や理由がないともう会えないと思った。
「遅くなったけど、おめでとう!」
「え、本当にいいんですか?ありがとうございます!」
なに入ってるんだろ~って何回ものぞいてて
内緒~ってまたいつもの帰り道を歩こうとした。
「あ、俺、今お腹すごく減ってて…今日は送れないです。」
「バイト終わりだもんね、大丈夫だよ」
「すみません。」
「また飲もうね」
「……気を付けて帰ってくださいね」
また飲もうね、に対する返事がなかったことが少し気になった。
1人で歩いて帰った。
*
脈ナシ、ということは薄々気づいていた
でも、暇さえあれば
彼のことを考えてしまっていることも
返信の来ないスマホが気になっていることは事実で
私は、彼が好きだった。
「今度の土曜日空いてる?」
「あいてますよ!」
「飲みに行かない?」
「是非!!」
帰りに、思いを伝えようと思った。
彼は優しいから、私が思いを伝えて振られても
気まずくはならないと思ったし、
また、友達として会ってくれると思った。
*
相変わらずお酒の弱い彼は、
真っ赤な顔をしながら、眠たいって言った。
もう帰ろうか、まだ22時だったけどお店を出た。
お店を出て5分くらい歩いて、
大きい橋の渡り初めに彼が、
「あの…、酔ってるところで本当に申し訳ないんだけど…言わなきゃいけないことがあって…」
最初は、自分が告白されるかと思った。
ほんの少しだけ、期待してしまった。
「うん、どうしたの?」
彼は、本当に言いづらそうにしていた。
「俺、今付き合えそうな人がいて…地元で。
だから、もうこうやって2人で会ったりできないんだ…」
頭が一瞬真っ白になって、
分かってても、泣きそうになった。
「ええーー!今日、私告白しようと思ってたのにーー!」
頑張って笑いながら言ってみた。
「俺、大学卒業したら地元に帰りたくて。もし、付き合ったら遠距離になっちゃうし、バスですぐ行けるような距離でもないし、本当にごめんね」
付いていくのに、と思ったけど何も言わなかった。
その会話の時だけ彼は何故か、タメ語だった。
「高校の同級生とかなの?」
「うん、夏休みに彼氏と別れてその相談に乗ってたらいい感じになって…今日も、飲みに行くって話したら、何もないようにねって言われて…」
そこまでは聞きたくなかったのが本心。
「話してくれてありがとう、本当に偉いよ、嬉しい」
何にも嬉しくない。
その後、橋を渡りきるまで何を話したかは覚えてなくて、
「じゃあ、俺コンビニに行くので、ここで」
「うん、今日はありがとうね」
「バイトの人達で飲みあれば、飲みましょうね」
「うん、ばいばい」
当然、送ってはくれなかった。
それが逆に優しさなんだと思うことにしたけど
帰り道は涙が止まらなかった。
風が冷たくて、涙も冷たくなって、鼻が痛かった。
帰りの途中、公園のベンチに1人で座って
もう連絡取りあうのもやめようか、と返信した。
「ごめんね」
とだけ返事が来て、
半年以上続いたやり取りも終わった。
私の恋はこれで終わった。
ちょっとだけベンチで泣いていく事にした。
*
タイミングって本当に大事だなと思った。
急いでる時に限って信号に引っかかるし
気合い入れたいときに限って化粧は上手くいかない、
適当な格好で出掛けたときに限って
知り合いに会うし、
なんとなく、うまくいかないように出来ていて。
ゆっくり時間をかける恋なんて、
相手の気持ちが自分から離れないって
保証されているときだけ。
夏前に私が思いを伝えてたら、
何か変わってたかもしれない。
自分の胸がどきどきしたら、
考える前にすぐ行動しないと
欲しいものってすぐになくなっちゃう。
ゆっくりなんかしていられない。
恋愛に不器用な私は
このことをちゃんと学んだから、
失恋の後ぐらいたくさん落ち込んでもいいよね。
つづく