#3 西内さん
コロナ禍の派遣バイトで出会った1,2個くらい年下の女の子。私はマスクをしているところしか見たことないが、めちゃめちゃかわいい。なんてったって元CA。今すぐにでも乃木坂のセンターになれるような、男子が絶対好きなタイプの子だ。華奢で色白、キュルンとしたお目目に下品じゃない涙袋。おそらくオフィスでもいける控えめに瞳が大きく見えるカラコンを付けていて、まつ毛はいつも綺麗に上向きにカーブしている。#1小田さんのオキニの大学生・大和くんも西内さんが好きで、以前何かの話の流れで大和くんの彼女の話になり、彼女がいることを西内さんの前で話されてしまいとても悔やんでいた。複雑な男子心だ。かわいい西内さんにあわよくば好きになってもらいたかったのだろうか。ちなみにこの話を主婦の#5森本さんにしたところ、「え〜、うちの子も外ではそんな感じなのかしら〜」と同じ大学生の男の子をもつ親として、若い男子の心の浮つきっぷりに若干呆れていた。
話を戻します。
西内さんは私立の中高一貫の女子校出身で、私もそうなので、仕事は数回しか一緒になっていないが女子校トークで話が弾んだ。
CAになるのに英語をいっぱい勉強したのかという質問に対して「日常会話くらいができればそんなに苦労しないですよ」と答えていた。
"日常会話" ー
それが一番フリースタイルで人それぞれ癖やリズムがある。まぁビジネス会話の方が難しい単語をたくさん覚える必要があるのだろうが、日常会話だって私からしたらそれができるのはすごいことだ。西内さんはきっと学校で真面目に勉学に励んでいたのだろう。かなり宿題が出る学校だったそうで、本人は全然頭良くないですみたいな素振りだが、そんな匂いがプンプンする。"THE☆真面目ちゃん"という見た目ではなく、普通にスクールカースト上位か中位くらいには位置していたと思われる雰囲気なので、もしかすると「全然勉強してないよ〜。・°°・(>_<)・°°・。」と言いながら裏でめっちゃ勉強してるパターンの子なのかもしれない。別にいいけど。
CAの採用試験についての話。
応募したい会社の条件に身長制限があり、西内さんは1cm足りなかった。しかし入りたかったのでダメ元で書類を送ったら審査が通ったそうだ。きっと容姿もそうだが、中身も良かったのだろう。日頃の働きっぷりを見てもそう思う。敬語もしっかりしているし、気を利かせて動くこともできる。ある現場では西内さんがリーダーとなって動く時もあった。私が一番好きだったのが、控え室がない現場で、自前の荷物を地面に置くしかない時。仕方ないので私は何も気にせず下に置くのだが、私が鞄を下に置こうとした時、西内さんが「あ、これありますよ。」と言ってすかさず自分の鞄からスッと大きなポリ袋を出して地面に敷いた時は、あまりの華麗さに思わず笑ってしまった。私はありがたく西内さんが敷いてくれたポリ袋の上に、彼女の鞄と並んで私のも置かせてもらった。この仕事ではロッカーが用意されていないことがほとんどなので、派遣会社が用意した謎のカゴに荷物を入れるか、それが用意されていなければ下に置くこともある。西内さんは絶対下には置きたくないのだろう。彼女の美意識は見た目とか上辺だけのものでなく、持ち物にまでしっかりと及んでいると分かり、感服せざるを得なかった。
そんなしっかり者の西内さんに、CAの仕事で大変だったこと、ドラマのような女同士のイジメみたいなものはあるのか訊ねてみた。
大変なことと言えば、CAの仕事はかなり体力が必要なことくらいで、西内さんは仕事自体が好きだったのでそこまで辛いとは思わなかったそうだ。ただ、周りが高身長な人ばかりで格好良く制服を着こなしている中、1番背の低い自分は子供が混ざっているようで少し惨めというか、残念な気持ちだったらしい。そしてイジメに関しては、毎回同じメンツで勤務するわけではなく、日によって同乗するスタッフが変わるのでイジメに発展するようなことは起きないし、受けたこともないが、そういう嫌がらせがあったという噂は聞いたことがあると言っていた。また、変なクレームややばい客はいたかと訊ねてみた。クレームではないが、中国人の客に呼ばれて色々と言われ、あまり理解が出来ず何か複雑な要求やクレームみたいな事を言われているのかと思い、焦って上司を呼び対応してもらったら、その中国人客は西内さんのことを「ビューティフル」と言っていただけで、しかもそれをわざわざ上司に通訳させてしまったことがめちゃめちゃ恥ずかしかったと言っていた。私はその感覚が好きだなと思った。このエピソードを話している時の、ちょっと言い辛そうにしている感じ。「私はビューティフルと言われたのよ」と鼻高々に自慢するわけではないんですけど…という謙虚さ。お買い上げだ。
西内さんはコロナ前、違う航空会社に転職したいと思い、それまでの会社を辞めて新しい会社で再びCAになるべく就活をしようとしていた。しかしそこにコロナのパンデミックが訪れ、全ての航空会社がCA募集をストップさせてしまった。そんな中、西内さんは航空会社が再び募集をかけることを待ちながら、先の見えない将来に不安を抱いていた。いつ募集が再開されるのだろうか。その時の自分は採用してもらえる年齢だろうか。そんな話をした時、こんなプー太郎みたいな私では何の説得力もないし、掛けられる励ましの言葉もなかった。年齢だけが真面目に平等に上がっていく残酷さと将来の見えなさに、共感することしかできない。でも西内さんみたいな人が絶対幸せになれる世界であって欲しいと思った。そうでなければおかしい。
私は休憩中、コンビニで美味しそうなちょっといいお菓子を見つけた。気の利いた言葉をかけられなかったので、せめてもの気持ちとそのお菓子を西内さんにあげた。その後、西内さんは終業間際にお手洗いに行くと言い、戻ってくると、お返しのお菓子をくれた。スタバのレジ横にあるタイプのちょっといいやつ。なんだか、私があげたお菓子とこの西内さんがくれたお菓子は、形は違うけれど、同じものが詰まっている、そんな贈りものだったと思う。
そんな贈り物を交換して、さよならした。
それ以降、私は西内さんに会っていない。
昨年より、ちらほらと航空会社がCA募集を再開し始めているようだ。
西内さんが今も変わらずCAの道を志しているかは分からないけど、どんな道を選択しているとしても、それが西内さんの納得できるものだったり、今も変わらずあんな風に鞄からポリ袋出してきたり、人を思い遣ってお菓子をプレゼントしたりしてくれればいいなと願っています。
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