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ヤクザと家族 the Family 優れたエンタメ映画として

山本賢治の生き様に翻弄されてしまいがちなのだけど。綾野ファンだから仕方ない。でも、この映画本当にエンタメに昇華されているいい映画なんじゃないかと思っていて。『新聞記者』もまた世間の評価とは別にわたしはエンタメだと思っているのだけど、だからこそ、正しくこの映画を評価してもらいたいものだなぁと思うわけで。

同じようなテーマを描いた(わたしの中では監督の力量として雲泥の差があると思っていた)西川さんの『すばらしき世界』を観たことで確信になった気がしてる。

『ゆれる』『永い言い訳』この2本はわたしの中で結構な位置にある。だから『ヤクザと家族』と同時期に同じようなテーマの主人公のありようが彼女によって示されたら、映画としての評価も持っていかれる気がしていた。

だけど、社会派映画でもある西川さんのものと社会派ではないと言い切る藤井さんのものとでは、土俵が違った。映画としての方向性が違うんだと思った。すばらしき世界を観て、ヤクザはエンタメ映画なんだと実感したのだ。

ヤクザの生きづらさなんて当たり前だ。義理人情に厚いからと言って肯定するわけにはいかない彼らのしのぎ。そこには薬物はもちろんだけど女性性を売る、クラブ経営もその一環と言っていいだろうし、風俗に至っては騙して落とし込むことも当然のようにある。
まさに賢治のような、家庭に恵まれず愛に飢えて行き場を失っている若い子を掬い上げ、居場所を与えると同時に底辺の仕事に従事させることでそのピラミッドは保たれているわけだから、ヤクザの人権なんて言葉は正直有り得ないのだ。

それでも、人は変わる。更生できる、生き直せる、そう信じないとやっていけない仕事をわたしはしてきた。現実にはなかなか変わらないし、拡大再生産的に、同じことは繰り返されがちでもあるのだけど。

西川さんは、本人の変わりたい思いとは裏腹の変われなさと、周囲の人たちの協力、環境、寛容さを、描いていたんだと思う。身元引き受けをする弁護士夫婦や人の良いスーパーの店長、役所の窓口職員(水際作戦にも触れて欲しかったけど、あえて触れなかったのだとしたら他のもっと触れなくていい事柄もあったのではというほど、雑多な問題が盛り込まれた)、生きづらさを感じているメディアの底辺にいる若い目からもそれはたくさん語られた。

一方藤井さんは、本人の意思に関わらず生きられない生きづらい社会が出来上がっていた、設定。14秒の暗転が14年だと聞いて鳥肌が立ったけど、世の中から隔離されたその時間はまさしく平成から令和へ時代が移り変わっていったあとの、浦島太郎として、山本賢治が第三部を生きること。その閉塞感と彼らを許容も寛容もできはしない一般人としての「観る私たち」の視点が、スクリーンの中の賢治をより孤独に追い詰めていく。愛した女も愛しい娘も、尖っていた時代からの友人も家族として生きた仲間も、彼を救えない。生きる術がないと追い詰められたとき、賢治が選んだ誰かを守るための暴力を私たちは否定しきれない。そして彼自身を奪う暴力でさえ、否定できない。

あんなに賢治は愛しいのに、彼がなにもなかったかのように真っ当に生きることはきっとないことを、映画に語られなくても私たちは知っていて、彼が悔いなく愛するものを守れたんじゃないかと思うことで折り合いをつけている。だからこそ、その後の翼と彩の会話が尊い。あれこそがリアルなのだと思い知る。彩が初めて賢治をお父さんと呼び、その生き様を知ろうとしたこと。翼が自分たち親子のために賢治が無謀なことをした末に、可愛がってくれていた賢治の仲間に殺されてしまったという負い目から解放される瞬間。ああ賢治は彼らの未来を守ったんだと心の底から思える、あの場面が追加されたことが、本当に素敵だ。

常に必要悪として存在してきたヤクザという人たち。彼らは正義ではないし正当でもないのに形を変え手を変えやり方を変えてその構造は今も残る。排除されたのはそこにしか居場所がなかった人間であって、構造は残っていること。それには映画は言葉を残さなかったけど、私たちはその事実を知っている。そういう描き方をすることで追い詰められ居場所をなくす人間たちって彼らだけじゃないですよね?というテーゼを示した。藤井さん、すごくない?

というわけで、綾野剛で観るだけじゃなくて良質のエンタメ映画として、よくできてると思ったのでした。(エンタメというとこの前のドクデスが思い浮かび、あれはあれでテレビ的で原作ファンには本当に心からお詫びしたいレベルと書き換えがおこなわれており、エンタメにはちがいないけど心から楽しめなかったので余計にそう思うのかもしれませんがね)

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久しぶりにBluetoothでキーボードとiPad繋ぎました。文章を打つの久しぶり過ぎて、
そううまくもないのがどんどんひどいものになるわけだけど、映画の感想って残したいしできればやり取りもしたいけど、なかなか場所がないなぁと。レビュー的なアプリも使っているけど昔のブログほどコメントでのやりとりに深みがでないし、Twitterはもちろんそういうのには向いてないし、難しい。リアルな友人と話せばいいことだけど、いつも同じ映画を見てるわけでもないし、ほんとに難しいなぁと思うコロナ渦でございます。