藤一色『紙は人に染まらない』感想


藤一色『紙は人に染まらない』を観させていただいた。

藤一色では初めての戦争を題材にした作品だというが、何となくこれは藤一色だからこそ書けた作品だなと思う。戦争という異常状態に悩まされ、狂わされる人々を、赤紙配達員の視点から描くというのが珍しく、それによって戦争の新たな側面が見えたような気がした。

アフタートークでも話があったが、市井の人々が中心の、小さい規模で戦争というものが語られる。そんな彼らのメンタリティは現代の私達とそう変わらず、そのことでより一層、戦争の恐怖というものを身近に感じることができた。

重罰を覚悟してでも息子の兵役免除を頼み込む父。
恋人へ赤紙を渡しにきた兵事係に罵声を浴びせる女性。
息子の戦死公報に悲しみを噛み殺して喜ばなければならない年老いた両親。

大切な友人や弟にも赤紙を届ける兵事係自身の苦悩も含め、彼らはみな、現代に生きる私達と何ら変わらない感受性をもつ。考えれば当たり前のことなのに、そのことに胸が苦しくなってしまった。

その中でも終盤の「慰問袋にガラスを入れた妻」のシーンは衝撃的だった。

戦争を題材にした作品では、残された家族はとかく息子・夫が戦争から無事に帰還することを願う健気な人として描かれがちだ。そんな中で、その妻は普段から旦那にDV(当時にはない言葉だが)を振るわれ、戦争以前から死の恐怖と戦っていた。それが旦那の徴兵によってようやく平穏な日々が送れている。だから帰ってきてほしくない。ハッキリいえば戦死してほしい。

そんな「戦争によって救われた人」も生々しく描ききっていて、このシーンだけでチケット代以上の価値があった。夏に放送される戦争ドラマでは絶対に描かれない、小劇場だからこそできたシーンだと思う。

総合して──この言葉が適切かはわからないけど──とても面白かったです。ありがとうございました。

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