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シティ・ライフ VIO

都会生まれの都会育ちだが、日常的にそれを実感することって今日までなかった。でも今日生まれて初めて「私って都会に住んでいるんだ」と腑に落ちる出来事があった。

遡ること1週間前、仕事しながらラジオを聴いていたら、VIO脱毛が熱く語られていた。時代はいい方向に向かっているなと思う。VIOについて女性たちがオープンに語り合い、リスナーが経験談や悩み相談を投稿し、市民がメディアを通じて知識や不安を共有しながら楽しげに笑う。私も、学生時代、女友達と「俺たちAKB48じゃなくてVIO48のセンターだよな」ってキャッキャしてたなぁと思い出し、自然と笑みがこぼれた。トミー今頃どうしているだろう。

しかし次のパーソナリティの言葉に私の笑みは消えた。「白髪になると毛根がレーザーに反応しなくなるらしい。脱毛するなら毛が黒いうちじゃない!」 私は(ラジオだから凝視する対象がないので、とりあえず)宙に向かって目を見開いた。そのまま聴いているとさらにもう一人のパーソナリティが「パートナーがいない今がチャンスじゃん!」と言って、二人が笑った。

私はラップトップを閉じた。仕事してる場合じゃねぇと気づき、古巣の施設にレーザー脱毛の予約を取った。仕事じゃない仕事は早い早い。

ところで、ご存知ない方に解説すると、VIO脱毛って結構頭を使うし事前準備が必要だ。まずは日程選び。生理中を避けなきゃなのは大前提。(あとで理由は明らかになるが)できれば仕事が休みの日がいい。(そしてパートナーがいる人で、慎み深いタイプは、相撲相手に暗闇でかろうじて違和感を与えない程度になる日程を計算しておく必要がある。)
 施術前日には、脱毛したいエリアを電気シェーバーで剃っておく必要がある。シェーバーで剃るのにも準備があって、手に汗握る、人知れないアクロバティックな作業が2回求められる。電動シェーバーは、長い毛を剃るのには向いていないため、まず1回目に長い毛をできるだけ短くハサミ等で刈っておく必要がある。皮膚を傷つけないように、あり得ない体勢でほぼ命懸けのカッティング。そうやって短くしてから、シェーバーで再度あり得ない体勢になってシェイビング。このダブルアクロバティットの後には風呂場も掃除。
 施術当日は、なにせOを含むVIOいう特殊なエリアを、お人形みたいに綺麗なお姉さんの前に晒さないとだし、晒すどころかぐいっと鷲掴んで、凝視しながら焼いていただくのだから、できれば施術直前にシャワーを浴びてから向かいたいところだ。だから私は仕事休みの日に予約をとって、シャワー後に現場に直行できるようにしている。ちなみに当日、水分を取る際には少しタイミングや量を考えるべきだ。そして満を持して、トイレに行き、シャワーを浴び、いざ出陣!という流れだ。

私が以前通っていた脱毛の施設は、皮膚科兼レーザー脱毛をしているところだ。受付の綺麗なお姉さんから問診票を手渡された。問診票に脱毛エリアに関する言及がないことを不思議に思い、お姉さんに聞いてみた。するとお姉さんが、綺麗なお顔をぐぐっと前に寄せてヤバい取引してるみたいな小声で「エリアは、どちらになります?」と尋ねてきた。私は適音量とトーンがわからないまま「VIO」と英語で答えた。すると、「今コロナだから粘膜系はやっていないんですぅ」とのこと。…粘膜系。「ウェブの予約欄に現在粘膜系不可ってわかりやすく書いとけ馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ」とは言えず、「Iの内側以外は粘膜じゃなくない???ってかコロナだから粘膜ダメって、え?因果関係がわかるようでわからないんですけど???」とも問えず、お姉さんに謝られながら病院を後にした。

私はエントランスの前で立ち尽くした。ダブルアクロバットをこなしてやっとの思いで剃った繊細エリア。無駄骨ってだけじゃない。これから数週間無意味にチクチクしながら過ごせというのか??いや、焦るな、明日以降にどこか違う店で予約すれば良いのでは?いや、飲む水の量を調節し、シャワー浴びてから病院に来られる日で、暗闇の違和感を相撲で与えない日をまた計算するのはかなり面倒だ(いや、違和感を感じる人は現在いないのだが)。

その時、シティの天使が舞い降りた。私はスマホの地図アプリで所在地を確認し、付近を検索の項目を探し、「VIO医療脱毛」で検索した。検索結果に驚いた。なんと、近場に数件あるではないか。この検索履歴いやだなと頭の隅っこで戸惑いながら、私は急いで電話し、今日脱毛できないか聞いた、すると一件目で即「30分後のご予約でよろしいですか?」はい!!「あ、でも事前にシェーバーで剃っていただくことが必要で…」ご心配なく!!剃ってあるんでっ!!!そのまま次の医療脱毛クリニックへ向かった。

30分後私は施術用のベッドに横たわっていた。その時、私は生まれて初めて、「都会」を感じていた。ああこれが都会か、これが皆がバカ高くて、空気悪くて、コンクリートジャンゴーでも都心に住む理由か。医療脱毛(VIO)を探し求めた30分後には下半身をレーザー照射されている、これがシティーライフか…。私は「目を保護しますね〜」と言ってかけられたタオルの下で目を閉じてしんみりしていた。このタオル、どれぐらい目を保護するんだろう。お姉さんの目は大丈夫なのか。ゴーグルとかつけていらっしゃるのだろうか。わからない。だって見えないから。何も見えない。すごい達成感。

本日、VIOしっかり鷲掴みで照射してもらって1回1万円強。最終的に求めている毛量にもよるが、根絶したいなら平均的には6回くらい通う必要がある。シティ。


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