街灯に踊れば:743文字

サークルの帰り道は完全に酔っていた。
おぼつかない足。
何もしていないのにぶつかる電柱。
二つにも見える高層ビル。
空は黒く澄んでいて私の焦点をずらす。
言動、行動全てが脳でなく心によって動かされていた。
私は先輩に思わず話しかける。
「先輩酔ってるんですか?」
へべれけの私より顔が紅潮し、長い髪を揺らしながら大股で歩く先輩は
「酔っとらんよー!」
と高らかに宣言する。
しょうもない事なのに大笑いしてしまう。
少しの坂を下りながら同じ押し問答と笑いが何度も閑静な住宅街に轟いた。
そろそろ分かれ道だ。
私は踵を返し先輩の方に向き直り挨拶をする。
「また明日のサークルで!それじゃあ!!」
別れにはいらないボリュームの声が先輩には届いていない様に思えた。
気分でも悪くなったのかとリュックから水を出そうとすると、
「少し踊らない?」
日常生活で聞き馴染みのない言葉に「え」と思わず疑問の感嘆が頭から口へと出た。
こうやってさぁとポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し片方を自分の耳へ、片方を私の耳へはめ込んだ。
呆気に取られた私を尻目にえーっととスマホで選曲をしている先輩。
これで!と快活な声と共に耳にはキリンジの曲が流れ始めた。
目の前に完全に寄ってきた先輩は私の両手を取りステップとは言えないステップを始める。
つられて千鳥足を動かす私。
街灯に出たり入ったり。
はねる。
はねる。
はねる。
笑うのではなく笑みが溢れる。
まるで世界が今生まれた様な感覚でさえある。
回る先輩と回る私。
4分ほど経つと息が切れ始めるが、それでも現実は遥か遠くにいた。
除く月が照らしているのか。街灯が照らしているのか。それとも私にだけこの光景が明るく見えてるのか分からない。
ただ右耳から流れる音が先輩と同じなのが嬉しかった。
曲が終わるタイミングでゲロが出た。

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