第一回ダークネス幹部の絆を深める会:3957文字

先日ヒーローに言われた。
「これが俺達の絆だ!」
あの言葉は衝撃的だった。
奴らにあって私達に無いもの。
いわば敗因。
絆。
退散後すぐに執務室で他幹部へ手紙を書いた。
「11月27日ヒーローへの対抗手段を執行する。基地に集まられよ。」
手紙をコピーして封筒に蝋をし、投函後に気付いた事があった。
絆を深めるとは?
絆という原因は分かったものの、深める為の要因は思いついていなかった。
執務室に駆け足で戻り、パソコンで急いで調べた。
絆 深める 方法
急速 絆 深め方
絆 遊び 本当?
遊び 何する
大人 遊び 何する
どうやら「飲み会」というのが成人した人間での絆の深め方らしい。
しかもどうやらヒーロー達は未成年で「飲み会」は行えないときた。
勝った。
ついに奴らを叩きのめし我々ダークネスが地球を征服出来るのだ!
つい笑みが溢れそうになる。
まだだ。
この笑みは勝利を収めた時に取っておかなければ。
…。
ちょっと待て。
飲み会 何する
居酒屋 何
居酒屋という場所に行かなければならないのか。
最寄り 居酒屋
基地から200mくらいあるのか。
確かNo.4のフトンチョは破壊力がある分スピードは他幹部と比べると足が遅かったな。
集合場所を基地から居酒屋に変えなければ…
ん?
今の絆っぽくないか?
他者を理解する心の強さこそが絆だろう?
既に私は深めつつあるのかも知れない。
「絆」を!
私は跳ねる思いで集合場所変更の手紙を書きコピー機へ。
ポストに投函にし、準備万端だ。
待てよ。
人間は良く外で行列を作って待っているが。
もし店の中が満席なら外で待たなくてはならないんじゃないのか。
もしそこをヒーローに見つかりでもしたら一網打尽。
絆を深められていない我々に勝機などありはしない。
急いで店に電話をかける。
「はい、お電話ありがとうございます。東荻窪セブン酒ターです。」
「11月27日に予約をしたいのだが。」
「何時頃でしょうか?」
しまった、手紙に時間まで書くの忘れていた。
「何時なら空いてるかね」
いい機転の利かしだ、私。
手紙で時間指定していない事をプラスへと転じる事ができた。
「そうですね…19時以降なら空いています。」
「なら19時でお願いしよう。」
「かしこまりました。コースなど如何なさいますか?」
コースが存在するとは。
急いで手元のパソコンで調べる。
飲み放題コース 食べ放題コース 飲み放題食べ放題コース
なんだこの具体性の無いコース達は。
人間の間で食い終わったら店を出るとは知っているが、それぞれのコースがどれ程の時間で提供され、おおよそどれ程の時間で食い終わるのだ。
そもそも絆を深める為にどれほど時間がかかるか分からない。
少し沈黙して考えていると電話口が声を出す。
「はじめてのご来店ですか?であれば飲み放題食べ放題コースがオススメですよ。」
「それはコースの提供が終わっても追加で食事を提供してもらう事は可能か?」
「はい、勿論できますよ。」
どの程度の料理が出てくるか分からないが、最悪私が多少無理をして食べれば長くは居られるだろう。
「ならばそれで頼む。」
「かしこまりました。何名でのご来店ですか。」
「5名だ。」
「かしこまりました。ではご確認させて頂きます。11月27日19時から5名で食べ放題飲み放題コースですね。」
大丈夫と返答する前に一つ思い出す。
「すまない、5人とも仮装して赴くことになるのだが大丈夫か。」
「あ、分かりました。であれば個室の方ご用意させて頂きますね。」
居酒屋 個室 何
「気遣い感謝する。」
「いえいえ大丈夫です。それで11月27日の19時のご来店心よりお待ちしております。失礼致します。」
「ああ」
ツーツーと電話口から音がする。
電話口の人間よ、世界征服した暁には我々ダークネスの一員に迎えいれる事、約束しよう。
そんな思いを馳せながら本日3通目の手紙を書き始める。
投函した後はもう少し飲み会について調べなくては。

私を除き一番乗りで来たのはNo.3のサッキバス。
麗しい姿でヒーロー達を魅了する戦法がここ最近通用していない。
今日は彼女に良いアドバイスが出来ると嬉しい。
予定時刻の5分前だった。
「カイザーからまさか飲み会の誘いが来るなんてね。」
私は飲み会などとは一言も手紙に書いていない。
「何故飲み会だと分かった。サッキバス。」
私が思ったままの疑問を投げかけると彼女はフッと息を漏らして、
「集合場所も時間もまんま飲み会じゃない。」
「サッキバスは飲み会には参加したことあるのか?」
「飲み会っていうより合コンだけどね。人間を知る為に参加したりすんの。」
「あとサツキって呼ぶこと。人間っぽく無い名前で呼びあってたらヒーローに通報されるかも知れないから。」
やはりサッキバスは頭がキレる。
そこまでリスク管理が出来ているとは。
今日の飲み会の作法も分からない所は彼女に聞いていけば間違い無いだろう。
「てかアンタ人間に変身できるの?」
「それは問題ない。今日は仮装での飲み会とお店には連絡してあるのでな。」
そうするとサツキは呆気に取られた顔をしたかと思えばニヤリとして
「気が利くじゃない。」
といつもの姿に戻った。
そんなタイミングでNo.5のDr.マッドがやってきた。
「お久ぶりでございやします。カイザー様サッキバス様。」
特徴的な甲高い声で私たちは振り向く。
我々の縁の下の力持ちでありながら、自ら戦場に立つ事も多い。
戦いの場に身を置く事と研究の時間のバランスが取れているかの確認をしておきたい人物である。
「丁寧な挨拶感謝するマッドよ。それから…」
ちらりとサツキの方を見る。
サツキは黙って頷いた。
「今日は人間の目に触れる場に赴くから名前を人間に違和感の無い様に言い換えよう。彼女はサツキ、私はカイと呼んでくれ。」
そういうと、マッドはモジモジしだした。
早くも尿意を催したのだろうか。
顔を少し赤らめたマッドは
「それならば私の事はマーちゃんとでもお呼び下さいやませ。」
以外だった。
まさかマッドが「ちゃん」で呼ばれたかったとは。
私が少したじろぎそうになった所にサツキが割って入ってきて
「いいじゃん!マーちゃん!私もサッちゃん!って呼んでよ!」
「え、ええ。分かりやました。サッちゃん。」
これだ。
これこそが絆だ。
滑り出しがなんとも順調ではないか。
今日の飲み会は我々の革命日たりうるぞ。
サツキとマーちゃんが何やらよく分からない甘味の名前で盛り上がっていると、音も立てずにNo.2のムサシがやって来ていた。
時刻もピッタリだ。
今日一番素性の読めない幹部である。
「ムサシよくぞ来てくれた。今日は人間の前に出るが、攻撃目的ではない。バレない様にする為、呼び名はこちらから、マーちゃん、サツキ、そしてカイと呼ぶ様に。」
そう私が言うとマーちゃんは深々と頭を垂れる。
サツキは、そういう事だから、と手を振っている。
しかしムサシは頷くだけで何も言わない。
元から無口な者ではあるが、先程のマーちゃんとやり取りとどうしても比べてしまう。
「ムサシはあんまり違和感ないからムサシのまんまで良いじゃない?」
サツキは私に言う。
確かに。
彼女の言葉に一理ある。
「ムサシはムサシのままでも大丈夫か?」
そう確認をとるとムサシは頷く。
正直腹の中が読めず、今日絆を深めるのに一番難航しそうだ。
少し静かになった我々へ活気を取り戻したのは3分遅れで来たNo.5のフトンチョだ。
「お待たせしたっす!今日はカイザーの奢りでたらふく食べれるんすか!!」
相も変わらず飯の事しか考えてない奴だ。
しかしその愚直さが時に良き結果繋がる事を私は知っている。
「フトンチョご飯の話するの早すぎなんですけど」
「フトンチョ様は食べ物の話になると目を一段と輝やかせやますからね」
まさしく今起こった、この様にである。
ムサシの方をちらりと見ると少し口角が上がっている。
こうして集まってみればフトンチョはムードメーカーの気質がかなり高い様に思える。
要所要所でフトンチョに話を振れば場を和ますことが出来そうだ。
「それでは参ろう東荻窪セブン酒ター店へ!」
我々は歩みを進める。
勝利と栄光と絆のために。


昨晩家路についたのが朝の4時辺りであったはずだ。
まだ頭が痛い。
飲み会の滑り出しは上々であった。
フトンチョがご飯を頼もうとしすぎたり。
マーちゃんがお酒に関する豆知識を入れてくれるおかげで違いが味わえたり。
サツキが流行りのコールを私に強要したりと。
会が進むとムサシが最近よく行くラーメンのお店でのエピソードを話してくれたがあれは傑作だった。
マーちゃんが笑いで咳き込みすぎて血を吐いた程だ。
流石に爆笑からの流血で場が冷え込むかと思ったが、咄嗟にフトンチョに話を振って正解だったな。
あれは我ながらファインプレーだったな。
その後は2軒目のサツキ行きつけのバーに行って…
いけないあやふやだ。
ビリヤードをしたのはその店か?
次行ったゲームセンターか?
それにしてもムサシがあそこまで不器用なのは思わず笑ってしまった。
今にして思えば勝って知ったる仲とは言え失礼だったか?
また会った時に軽くでも良いから謝罪をしておこう。
しかしながら深まったな絆。
これでついにヒーローを倒す時が来た。
今月の終わりくらいに昨夜のメンバーを集め会議を開き、深めた絆を活かした作戦を提案するのだ。
待ってろ。
世界は我々ダークネスのものだ!
「本部にて、集合時間13時」と書いた手紙をコピーして封筒に蝋をしポストに投函した。


「…と、この様な作戦でヒーローを倒そうと思うのだが。どうだろうか?」
会議室を見渡す。
喋るわけでもなく爪を見るサッキバス。
一心不乱に何かを食べるフトンチョ。
フラスコに緑の液体を慎重に注いでいるマッド
眠っているのか瞑想しているか分からないムサシ。

何故だ。
何故なのだ。
飲み会ではあれ程に仲を深めたはずなのにこんなにも気まずいのだ。
そう強く思いながら気軽に話を振れない私がいるのもまた事実であった。
世界征服と絆の道はまだまだ遠くに見える。

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