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StartupWeekend塩尻 で航海しなかった話

穏やかな海は良い船乗りを育てない。
-A Smooth Sea Never Made a Skillful Sailor.-

イギリスのことわざ


1602年にオランダ東インド会社が設立されたときから、人類は株式会社という奇妙な組織のあり方を発見し、現在に至るまでその数を増やし続けています。
それよりももっと前の1400年代には、ヨーロッパの王様が船乗りに莫大な投資額を提示して、遠くインドにあるという香辛料を取ってこさせていました。ただ行って帰ってきてもらうだけの単発プロジェクトですが、航海には1年以上の年月を費やす上に、嵐を回避したり、海賊の襲撃を跳ね返したり、仲間割れや裏切りが起きないように、強固な戦略とチームワークを作ることが必要でした。
当時の航海成功率は20%以下と言われていますから、投資家である王様にとっては誰がどんな船に乗り込むかを知ることが非常に重要な問題でしたし、船乗りたちは自分や仲間が死なないために、海に出る前から色々な思考実験をしていたと考えられます。
今回はその中のひとりとなって、"海に出る前の船乗り"を擬似体験してきました。以下にStartup Weekendに参加した一人称視点を共有します。

※Startup Weekendってなに?という方は法人サイトをご確認ください。
とりあえずマルチとか宗教ではないことは確かです。
https://nposw.org


乗組員を集める

分かりやすい、共感しやすいアイデアを持っている人には真っ先に人が集まりますが、そうでなければなかなか仲間が集まらないようです。
この時、自分は自分のアイデアを棄却し、投資家の目線になっていました。色々な人と話した結果、「この人を沈没させたくない」という気持ちで、最後に余った人同士でチームを組んでみました。ここでいう沈没とは「没個性的な存在となること」「チームの崩壊」「1位以外となること」でした。事業として回るものができなくても、とにかく1位になるように動いてみようと思いました。
このチームは「起業を目指す中学生」「30代会社員」「70代哲学者」というダイバーシティ構成で、他のチームの人たちは最悪バラバラになっても泳げるだろうけれど、このチームは恐らくそれが無理で、最も絆関係が強くなりやすく、この3日間ではそれが武器になるかもしれないと考えました。

手に入れるものを決める

自分たちが何者で、何を手に入れたいかを共有していくと、「資本主義に対する反抗心」と「社長という名声」という対立する欲求があり、思いもよらずかなり尖ったチームであることが判明します。
でもこれをそのままアイデアとして出しても誰もお金を出してくれなさそうだったので、全3日間のうちの2日をこれに悩みました。相当な時間、顧客というものの存在を忘れていたのですが、それはアイデアの起点が「自分がやりたいこと」であり、集まった人たちはみんな「投資しない王様」として振る舞いたがっていたからです。でもそれはイベントの性質というか、思い込みによるもので、個人の能力の問題ではありません。
ここで哲学者ヘーゲルの考え方を参照してみるのですが、一見対立する二つの命題(例えば資本主義への反抗心と、社長という名誉欲)があるとき、これらに止揚という行為を働きかけることで、両者が否定されずにより高い次元の命題(一時的な答え)が見つかるそうです。見つかるそうですと言っても見つけるのは自分しかいないですし、そのような進歩主義的な考え方を否定する哲学もあります。だから哲学って役に立ちそうで立たないと思わせてくれるところが好きです。
でも結局、コーチングを受けるまで、バラバラな、最大公約数的な、無難なアイデアしか出来ていませんでした。

助言を受ける

その後、全てのコーチから「顧客=王様が欲しいものを取りに行け」というアドバイスが与えられ、自分たちが船乗りであることをようやく自覚しました。
言語化が難しいのですが、自分が欲しいものを手に入れるということと、自分が欲しいものを得るためのシステムを作るということは、似ているようで全然違うのだということが分かりました。王様として欲しいものを要求するのではなく、船乗りとしての使命を全うしなければならないという「覚悟」を持つよう促されます。

航海計画を立てる

投資家や仲間の人に安心して動いてもらうには、事業計画書の作成が必要です。
僕は数字の計算がとても苦手なので、全てベテランの方にお任せしました。
もう一人には顧客を引き込むような雰囲気づくりをお願いして、音楽やロゴの選定をやってもらいました。
自分はあまりちゃんとしたことができず、色んな人の話を聞いて、仮説を補強できそうなデータを抽出し、自分の中で筋の通ったストーリーを組み立て、ピッチ資料を作成していました。
本来ならMVPという、小さな製品を作れたら良かったのですが、チームに職人がいなかったので、ロジックを捨てて情緒的な演出に注力しました。
「航海したことないけど僕たちまじで頑張るので応援よろしくお願いします」という戦略です。

リーダーをつくらない

今回は肩書でいうところのリーダーを決めずに進行しました。理由は良いリーダーの決め方が分からなかったからです。恐らくこれは人類が民主主義を達成できるまでの永遠の課題です。
通常はアイデアの発案者がリーダーになると思いますが、将来的にアイデアが変化する可能性がある状態でリーダーを決めてしまうと、何らかの理由でアイデアが変化したとき、リーダーらしさを担保していた要素がなくなり、発言力のバランスが崩れ、チームの変容に対処するためにリソースを割く必要があります。そうなるのが嫌だったので、誰がリーダーになるかという問題は永遠に先延ばしにしました。

ピッチをする

どの船に行ってもらうかは投資家が決めることですが、お金や装備がなくても船乗りたちが行きたいと思えば、物資をかき集めて行くことになると思います。
この時点で僕は行きたいと思っていて、僕が話したいと思ったので、代表して発言させてもらいました。
色々な反省がありますが、ピッチの時点ではまだスタートアップにもなっていなくて、出来上がったスモールビジネスをどのようにスタートアップにしていくかを検討したかったです。

航海せずに終わる

このイベントは、アイデアを事業にできるかどうかは割とどうでも良くて、スタートアップという経済活動の文法や楽しさに触れる機会を提供し、本当に船に乗りたくなったら協働しましょうという、ゆるい組織形成を促すものであるということが分かりました。
実際の航海はもうそれぞれのフィールドでやっていることで、活かしてもいいし活かさなくてもいいというスタンスが良いなと思いました。
スタートアップウィークエンドを趣味にして、いつまでも航海しないのはダサいなと思うので、僕も本物の船に乗る準備をしていきたいと思います。

最後になりますが、参加者の皆様、運営者の皆様、コーチの皆様、支援者の皆様、そして僕のような人間と組んでくれた仲間のお二人に、感謝を申し上げます。
ありがとうございました。





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