「こんなに手作りでやってるの!?」ー松本のカレーの名店「メーヤウ」店主が語る「りんご音楽祭 」・後編【ココが変だよ、りんご音楽祭vol.2 全編】
▽「りんご音楽祭」は「パーティーの延長線」であり、「お祭り」
長崎:前半では、出店者・運営としての「りんご音楽祭」について伺ってきました。
後半は、小山さんの「りんご音楽祭」への個人的な意見も伺っていこうと思います。音楽がもともと好きだとお話がありましたが、小山さんからみて「りんご音楽祭」はどういうフェスですか?
小山:正直、僕は他のフェスに行ったことがなくて。「これがフェス!」っていうのがわからないし比較対象はないんですが……。「りんご音楽祭」は「パーティーの延長線」って感じがします。クラブとかライブハウスみたいな箱から外に飛び出して屋外へ。パーティーの、すごいでかいやつ。
長崎:あぁ、それ以前他の運営メンバーの方も仰ってました。
小山:それから、「地元のお祭りの一つ」って感じがするな。伝統的な祭りもあると思うんだけど、こういうお祭りがあってもいいよねって。結局僕はお客さんとして参加したのは一回だけだけど、出店側・作る側としても楽しいお祭りですね。
▽コロナ前とコロナ後の「りんご音楽祭」
長崎:小山さんは、コロナ禍の2年間を経験していて、なおかつその前の「りんご音楽祭」も知っていますよね。そこの比較はどうですか?
小山:コロナ前の2019年の「りんご音楽祭」は過去最大規模で、10年間の集大成だったんです。お客さんの熱量もすごくて。そしてそこからのコロナ禍の2年は、ある意味ものすごい原点だったのかなって。
長崎:原点?
小山:一番最初に一回戻った感じがしましたね。規模的にも、客さんの数も、初期の頃ってこうだったんだろうなって。でも、コロナの一年目の2020年は、規模は小さくなったけどお客さんの熱量は変わらなかったんですよ。
長崎:へー!
小山:たぶんですけど、あの年「フェスに行こう!」と思った人って相当頭イカれてるんですよ。
長崎:(笑)
▽人には、「解放される瞬間」が必要
小山:たぶんみんな溜まってたんですよね。東京でもイベントなし、フェスも中止延期の中で唯一開催されたのが「りんご音楽祭」で。きっと、ものすごくコアな、フェスやパーティーを楽しんでるハードなお客さんが集まってきた。異常に盛り上がってたんですよ。人ってどういう状況だろうと、「祭り」とか、解放される瞬間とか場所が必要なんだろうなって感じました。
長崎:なるほどなぁ……。
小山:でも翌年の2021年はそれがぎゅっとしぼんでしまったんです。延期せざるを得なかったとかいろんな事情はありましたが、何もないことにみんな慣れてしまったというか、おとなしくなってしまっていた。これ大丈夫?フェスとか音楽業界ってこれからどうなるの?って不安になりました。
長崎:今年の「りんご音楽祭」は例年通り9月に開催予定ですよね。コロナの理解度も深まってきて、2020年−2021年に比べて、規模を戻す流れで進んでるわけで。
小山:そうですね。規模を戻すって、ものすごいリスクがあるんですよ。そもそも本当にお客さんは戻ってくるのか?っていう。人が集まるところから離れてしまった人がいるわけじゃないですか。コロナの「よくわからない怖さ」は払拭されてきたけれど、夜の街はかつてほどには賑わっていない。はたしてフェスにどれだけ人が戻ってくるんだ? 規模を戻せば、かかる費用も戻る。当時と同じだけの収益が見込めるのか?
▽まずはこっちが元に戻さないと、お客さんのマインドも戻ってこない
長崎:不安も大きいですよね……。
小山:それでも、こっち側が元に戻してあげないと、お客さんのマインドも戻ってこない。「いつもどおりやってるよ!」って運営側がまず見せないと。僕たちは、リスクを冒してでも、お客さんたちに「コロナ前の楽しかったあの感覚」を思い出してもらわないといけないんです。
「もう一回いこうかな」って人を動かすのは「楽しかった記憶」じゃないですか。2年前、3年前に当たり前だったあの楽しい思いをもう一回味わいたい!って。我慢しているうちに薄れていってしまった記憶を、呼び戻さないといけない。
長崎:2年の空白を取り戻さないと。
小山:「こっちはそのつもりで待ってます!」ってね。あえてこのタイミングで規模を戻すのはそういう意味があるのかなと。こっちが戻さないと、お客さんはいつまでも解放できない。めちゃくちゃ怖いですけどね!
長崎:そこはほんと、運営の皆さんをみてるとめちゃくちゃ感じます。でも、sleeperさんも仰ってたんですが、「音楽で生きている人がいる、音楽で生かされている人がいる」じゃないですか。でも、音楽は「不要不急だ」と言われたり、コロナの状況は相当厳しい。「りんご音楽祭」として、そこをなんとかしたいという強い意志がありますよね。
▽同じ空間・時間を人と共有してこそ、味わえる感動や体験があるはず
小山:この2年間、「人が集まってなにかする」ことが悪とされてしまった。でも、それによってしか得られない体験がある。例えば、同じコンテンツ、同じステージだって、ライブの配信を家で見るだけでは味わえないものがあるんです。
同じ空間・時間を人と共有してこそ、味わえる感動や体験があるはず。そして、それがどれだけ素晴らしいかはみんな知っているはず。だって2年前まではそれが当たり前だったんだから。
それを、僕らが「またここで再現します!」ってしても、お客さんがついてこないと、もう二度と再現できなくなってしまうかもしれない。これは「りんご音楽祭」だけじゃなくて、エンタメ業界全体がびくびくしていることで。本当に、「あの空間・感覚」が戻ってこなくなるんじゃないかって。
▷コロナ前の盛り上がりを、みんなでもう一度取り戻す
小山:「あの時の楽しい気持ち、あの時の忘れられない興奮」を思い出してもらって、それを、これから先ずっと続けていく必要があると思うんです。
僕ら運営側だけじゃ無くて、アーティストにとってもそうですよね。何かを発信する、自分の表現を伝えていくためには、作り手だけじゃなくて、お客さんの方にも一緒になって参加してもらって、盛り上げていくことが必要だと思うんです。
それができれば、俺はもとに戻せるんじゃないかなって期待をしているんです。あの時の盛り上がりを、みんなでもう一度取り戻す。お客さんには、もうめちゃくちゃ来て欲しいです。2年前とまったく同じになるかはわからない、もちろんコロナもこれからどうなるかわからないけど、そんな中でもみんなで一緒になって空気を変えていかないと、このままでは本当に何か一つ終わってしまう気がして。
長崎:それは本当に怖いことですよね。
小山:それはなんとしてでも避けたいんです。どこか一箇所が、小さい規模で盛り上がっていればいいわけではなくて、全体がそうなっていかないと、元には戻らない。みんながそれを背負ってる気がします。
▽「コロナ前」を知っている自分たちが、先の世代へ伝えていく
小山:この2年間がなかったことで、フェスに初めていこうと思っていたのに行けなかったとか、コロナ前の盛り上がりすら知らない人たちもいるはず。このままでは、彼らはもうずっとそれを知らずに生きていくことになる。
長崎:その可能性すらありますよね。
小山:だから、「コロナ前」を知っている僕たちが盛り上げないと。先につなげて、一緒に作っていかないと、自分たちの遊ぶ場所すらなくなってしまいますよね。
コロナ前の「りんご音楽祭」にきているお客さんの中には、かつてバリバリ遊んでいて、今は子供ができたりして環境がかわっているかもしれない。そういう子供たちが遊べる場というか、空間みたいなものを作っていきたいし、残していきたいんです。そういうサイクルを、先の世代へと繋げていくためにも、運営の僕たちだけじゃなくて、お客さんたちにも一緒に盛り上げて欲しいなという想いがあります。
長崎:なるほどなぁ。結局は「とにかく来て欲しい」に行き着く。
小山:はい。とにかく、来ていただいたお客さんには存分に楽しんでもらえるように、こっちも全力で今取り組んでいます。アーティストのブッキング、ステージング、出店も含め、「やっぱり、『りんご音楽祭やべえな!』って、来てくれた人に言ってもらえるように頑張っているので!
▽三振してもいいから、フルスイングでホームランを狙っていく
小山:いままでの2年間は、三振するのが怖いから、とりあえずゴロでもいいからバットに当てていく、とりあえず一塁に出塁するみたいな感じでやってきたと思うんですよ。でも今年は、三振してもいいからフルスイングで!ホームラン狙ってく!みたいなマインドで僕らはやらなきゃ行けないと思っています。
長崎:これだけの熱い想いがある「りんご音楽祭」、一度来てもらえればきっとそれが伝わるし、いままで来ていた人にも、もう一度この熱さを取り戻しに来てもらいたいですね。
小山:そうですね。たぶん一回やったら思い出す気がするんです。「これこれぇ!」ってね!
長崎:小山さん、今日は熱いお話ありがとうございました。