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踵骨骨折「思いがけない瞬間に訪れた試練」


平穏な日常の終わり


それは、いつもの朝でした。忙しく家を出て、頭の中では仕事の段取りを考えながら、足取りも軽やかに階段を下りていました。けれど、その「普通」は突然、崩れ去ったのです。

ほんの一瞬、足を踏み外した感覚。その瞬間、全身が宙に浮くような感覚とともに、世界が傾きました。反射的に手足を広げて体を支えようとしましたが、右足で着地した瞬間、言葉にできないほどの衝撃が踵に走りました。

耳元で、骨が押しつぶされるような鈍い音が響いた気がしました。同時に、鋭い痛みが踵から全身に広がり、冷たい汗がじわりと肌を濡らしました。足元の違和感は、ただの痛みを超えた「異常」を告げています。それはまるで、自分の体が一部崩壊したかのような感覚でした。

立ち上がろうとするたびに、右足が「自分のものではない」ように感じられ、体を支えるどころか、軽く触れるだけで激痛が全身を駆け抜けました。転倒という一瞬の出来事で、当たり前だった日常がすべて揺らぎ始めたのです。

「踵骨骨折」という診断


救急車に揺られながら、痛みと不安で頭は混乱していました。「ただの捻挫ならいいのに」という願いとは裏腹に、右足から伝わる感覚がそれを否定していました。やがて病院に到着し、検査のためにレントゲン室へと運ばれます。薄暗い部屋の中、レントゲン機器の機械音だけが響き渡り、結果を待つ数分間が永遠のように感じられました。

そして、医師の静かな声で告げられた診断――「踵骨骨折です」。

「踵の骨に大きな亀裂が入り、複数の箇所で骨が割れています。このままでは歩行はおろか、日常生活にも支障をきたす可能性があります。」

その言葉はまるで、地面が抜け落ちるような衝撃でした。踵骨は人間の体を支える「土台」となる骨。そこが壊れるということは、単なる骨折ではなく、身体のバランスそのものに影響を及ぼすことを意味していました。

さらに詳しい検査が必要とのことで、治療方針は翌日以降に決めると言われましたが、その言葉が頭に入ってくる余裕はありませんでした。踵骨骨折という未知の言葉と、その深刻さだけが心に重くのしかかります。

治療を前に押し寄せる恐怖


診断の後、右足はすぐにシーネで厳重に固定され、「動かさないように」と強く指示されました。入院が決まり、治療とリハビリの計画を進めることになりますが、その時点ではまだ手術が必要かどうかは判断されていませんでした。

その夜、ベッドの上で天井を見つめながら、頭の中には次々と不安が押し寄せてきました。
「手術になったらどうしよう?」
「リハビリにはどれくらい時間がかかるのか?」
「もう以前のように歩ける日は来ないのだろうか?」

ただ歩くという当たり前の行為が、いかに大切だったかを思い知らされます。それを奪われる可能性に怯えながら、右足の痛みをただ耐えるしかない時間が続きました。

未来への小さな光


そんな中でふと、考えが巡りました。このまま不安に押しつぶされているだけでは何も変わらない。何か行動を起こさなければならない――そう自分に言い聞かせました。

踵骨骨折は、ただの怪我ではなく生活の基盤そのものを揺るがす試練です。しかし、完全に失われたわけではありません。医師や看護師、家族の支えを借りながら、少しずつ回復への道を歩むしかないのです。

「今は何も見えないけれど、きっと前に進める。」
小さな希望を胸に抱きながら、私はこの試練に向き合う覚悟を少しずつ固め始めました。


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