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爆弾はLemonの匂い
『檸檬』 梶井基次郎 絵*げみ 読了レビューです。
ネタバレ:あり 文字数:約900文字
・あらすじ
二条から寺町に下った場所にある果物屋。
そこで「私」は、丈の詰まった紡錘形の物体を見つける。
檸檬という名で、匂いは産地カリフォルニヤを想像させた。
えらく気に入った私だが、それをある場所に置き爆発する様を夢想して──。
・レビュー
「檸檬が出てくる小説」と見聞きだけはしていた『檸檬』ですが、読んでみたら想像以上にLemonでした。
およそ100年前の大正時代、西暦にして1925年の発表となる本作は、原文から現代文に修正した他に多くのイラストを掲載しており、まるで絵本のように読むことができます。
内容は思っていたよりも短く、檸檬を手に入れた「私」が丸善の店にそれを置いて、爆発する様子を想像している、というものです。
だから何だと言いたくなるのですけれど、友人の下宿を転々としている金のない「私」が、宝物のようにしていた檸檬を手放すのは、何かしらの暗喩なのだろうかと思ったり。
私はこの想像を熱心に追及した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」
そして私は活動写真の看板画が奇体な趣で街を彩っている京極を下って行った。
そんな終わり方だからこそ続きが気になるもので、次のような想像をしていました。
ひょんなことから爆弾犯となった「私」は、次々と思い出深い場所を爆破しながら、肺尖カタル、つまりは肺結核が悪化しても不安が少ない事実に驚いていた。
実際に著者の梶井基次郎が死亡した主因は肺結核らしく、本作は私小説のように読むことができます。
爆破したと想像する丸善も、金に困る前は「好きであった所」としており、しかし自分にはもう縁遠いものとして選んだのかもしれません。
縁遠くなった丸善を気に入った檸檬で爆破する、というのは思い出ごと打ち捨てるのと同義ですけれど、それでも悲壮感のない「私」の姿から、うっすらとした恐怖を感じるのでした。
ちなみに米津玄師「Lemon」は失恋の歌かと思うのですが、本作を読んだ後に聴くと檸檬の匂いを感じられるかもしれません。
『檸檬先生』という作品のレビュー記事も書いています。
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