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海は広いな大きいな。底が見えないのは誰かみたいだけど。
【文字数:約1,500文字】
北海道の知床半島沖にて、観光船が遭難した事件のニュースを目にした私は、あることを思った。
ここ、知ってるかもしれない。
しばらくして幼い頃に家族で北海道へ行った際、同じ目的で観光船に乗ったことを思い出した。
その頃の知床半島は観光地ではあったけれど、まだ世界遺産に登録されていなかったはずなので、乗った船も普段は漁に使われていそうな漁船だった気がする。
数時間かけて半島の先端まで行って戻るコースは、正直に言って面白いとは思わなかった。ただただ船が揺れて、汚い話で申し訳ないけれど吐いていたような。
27日の時点で観光船は見つかっておらず、依然として行方不明の乗員乗客も多い。
色々と予兆があっただけでなく、初日の運行で起きた事故は人災のように思えるのだけれど、まずは発見されていない人が見つかることを願っている。
◇
トラウマになりそうな乗船体験をしながらも、X0年後の私は船に乗っており、思い出しがてら数えてみると7つの航路で乗船していた。
以下、乗船した航路↓
茨木 大洗 ⇔ 北海道 苫小牧 商船三井フェリー
東京港 ⇔ 徳島 ⇔ 九州新門司 オーシャン東九フェリー
長崎 多比良港 ⇔ 熊本 長洲港 有明フェリー
鹿児島港 ⇔ 桜島港 桜島フェリー
大分 佐賀関港 ⇔ 愛媛 三崎港 国道九四フェリー
青森 ⇔ 北海道 函館 津軽海峡フェリー
長崎港 ⇔ 軍艦島(端島) やまさ海運
上の2つが長い距離を結ぶ総トン数1万クラスの大型船で、次の4つが渡し船のような500~1,000クラスの中型船、最後が観光船と呼ぶのが適当な100クラスの小型船と分類できるように思う。
ただし、法律上の区分だと総トン数20以上は大型船になるそうなので、先の表現は概念として添えている。
運行距離の長い商船三井フェリーの船は全長が約200m、全幅が約27mと、まるで海上の要塞を思わせる。
けれども船の欠点は飛行機と比べて足が遅いことで、陸路の新幹線よりもさらに時間がかかり、大洗から苫小牧まで約18時間が必要だ。
その代わりとして車やバイクなどと一緒に移動できるため、旅先での自由度が大きく広がる。
とくに北海道は町と町の距離がえげつない距離で離れているため、現地でレンタカーを借りないと周遊は不可能だと思う。
◇
長距離と短距離、それに観光船にも乗ってみたことで感じたのは、陸地という場所のありがたみだった。
渡し船のような総トン数1000クラスは電車やバスに近い感覚だけれども、それが1万クラスになると沖合へ出るために陸がほぼ見えない。
すると船が外界から隔絶された島のように感じられ、それまで味わったことのない孤独感が襲ってきた。
甲板から海面までの高さは目がくらむほどで、落ちれば確実に無事では済まない。
のっぺりとした海面に隠された先を見ることは叶わず、それがアスファルトの路面に生じた水溜りのように錯覚すると、途端に足が震え出した。
例え小さな船であっても、じっと海面を見つめたところで海底は決して見えてこない。
私は自分が木の葉に乗っているようなものだと、恐怖と共に理解した。
もしも何かのトラブルで海に投げ出されたとしたら、陸で生まれた人間は無様に泳ぐしかなく、魚のように生きることはできないのだ。
かつて人間の祖先が海から陸へと進出したのだとしても、今の私たちは陸に適応し過ぎている。
ましてや水温の低い北の海に入れば、正常な体温を維持できるはずもない。
いち早く行方不明者の方々が見つかるように願いつつ、海への畏怖を忘れないでおきたいと思う。
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