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あなたの死を願うから あとがき
【文字数:約2,100文字】
本稿は短編小説『あなたの死を願うから』のPostscriptです。
まずは奇妙な作品に目を通してくださった、殊勝かつ奇特な方々に感謝を。
そして甲冑に記念撮影を頼みましたので、皆さんは好きなポーズをしてくだされば。
「じゃあ撮りまーす! サンド……ウィッチ!」
アホな小芝居はさておき、わざわざ今回あとがきを書こうと思ったのは、本作が久しぶりに投稿先を想定せずに、それなりの長さがある話になったからです。
このnoteに投稿している時点で、読まれることを多少なりとも想定していますけれど、何かしらの賞を狙わないで長期間をかけるのは、記憶にある限り半年以上は前になります。
書いているときは楽しくて、もしも私がピアノを弾くことができたなら、きっと同じ感覚なのではと。
しかもそれは楽譜の存在しない即興演奏の連続から作られています。
文章の最終チェックのため、コピー用紙に印刷して始めから読んでいくと、書いていたときの情景まで思い出せるのは作曲者、もとい執筆者の特権です。
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本作が文学的な価値や評価を得られるに値するのか、私には分かりませんし、たぶん分かってはいけない気がします。
少なくとも自分の書きたいことを形に出来て、最初に長編を書いたときの何とも言えない感情を思い出すことができました。
そんな機会を得られたnoteに感謝すると共に、今後も細々と続けていけたらと願っています。
◇
『あなたの死を願うから』を読んだ方は気づいたと思われますが、本作には「アリス」や「エドバルド」といった固有の人名を使っていません。
ちなみに先の2つは今しがた考えたもので、構想のためのプロット段階から青年や魔女、甲冑を名づけないことは決めていました。
このあたりは作者の考え方によって違うと思いますけれど、少なくとも私は「必要だから」という理由で名前をつけています。
命名については前にも書いているのですが、対象を特別なものにする行為だと思います。
だからといって本作の2人と甲冑1つが、私にとって物語の駒なのかと聞かれれば、それは違うと否定できます。
プロット段階で甲冑はそもそも存在していませんし、青年も魔女と別れて自らの人生を歩み出す予定でした。
それが2人と1つで写真を撮る最後になったのは、1日で書き上げる数千字の作品と違い、数万の作品が長い期間を必要とするためです。
1日書いては何かアイデアがないかと考えて、それを取り込みながら成長していくことで、始めには予想していなかった形へと変化していきます。
数万字の作品にはそうした可能性があり、一輪の花が蕾から花開くまでを見守り続けるような楽しさがあります。
もちろん同じ作品に向き合うのは忍耐が求められますし、飽きずに読める表現を考えるのは頭が痛くなります。
この書き方さっき見たな、と絶望する度に辞書を開いたりするので進みは遅くなり、使った時間のわりに進まなかったと落胆する悪循環です。
それでも1つの作品に向き合い続けるのは、どこか人間と付き合うのと似ている気もします。
性格は合わないけど個性的だったり、話しているだけで時間が溶けてしまったりと、例えるなら様々な色の欠片から作られるモザイク画は、人間を表現するのに適切なのではないでしょうか。
◇
『あなたの死を願うから』は不死の魔女と死にたい青年が出会ったら、という想像が出発点です。
決して死なない存在にとって寿命のある人間は、気がつけば消えている雲と同じかもしれません。
でも、もしも死なないことが不幸になるとしたらと考えていき、本作のプロットが具体的な形を得ていきました。
十万字を超える長編とするには個人名が欲しくなりますし、それぞれが背負う過去などを掘り下げ、エピソードを増やすなどしないと厳しいでしょう。
ですから2万5千という分量は丁度いい長さでした。
紙でのチェックのために100枚以上を印刷して、読みながら全体修正をかけるのは大変です。どうしたって親バカで甘く見てしまいがちですし、話の展開を変えるときは葛藤なくして進めません。
そうした大小長短さまざまな苦労をしてまで書いたところで、活字を読むのが面倒くさい人にとっては電子のゴミに過ぎません。
役に立つ立たないで分ければ電子ゴミは後者でしょうし、有益かつ時短なものは社会にあふれています。
ただ、私は形にしたかった。
そこに山があるから登るという、どこか「考えるな感じろ」みたいな理由です。はぁーっ、ほわちゃ!
書くことは自己表現であり、内省の手段でもあるわけで、本作を形にしたことが新たな起点になるかもしれませんし、ならないかもしれません。
少なくとも好ましいと感じているからこそ、このようなアホなあとがきを書いているわけで、それを読んだ人がひとときでも楽しくなってくれれば、私は嬉しいのです。
社会への関わり方とするには非効率ですし、お世辞にも理解が早いとは言えません。
それでも私は青年と魔女、ついでに甲冑を見守る人々がいる世界を愛しています。
2022/06/18 輪-ring-動 don't または りんどん 拝
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