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経営学の大家、加護野忠男先生 逝く

編集部の松田です。昨年12月28日、日本を代表する経営学者で神戸大学名誉教授の加護野忠男先生が永眠されました。77歳でした。先生には、小誌の巻頭対談などにたびたびご登場いただきました。この場をお借りして、ご冥福をお祈り申しあげます。


お茶目な一面も…

初めて先生が小誌の表紙に登場されたのは2011年8月号。ワタミの渡邉美樹さんとの巻頭対談でした。翌年には京セラの伊藤謙介さん(稲盛和夫氏の右腕です!)と、やはり巻頭対談をしていただき、その後も折に触れてご協力いただきました。

松下幸之助についても長年にわたり研究され、著作『松下幸之助に学ぶ経営学』(日経新聞出版社)には経営の本質が詰まっていました。

加護野先生が登場された号の一部

最後にお会いしたのは2021年8月号のトップインタビューの取材時でした。コロナ禍でしたので、ZOOMの画面にちょこっとお顔だけ出して「実は、この下はパジャマなんですよ~」とおどける表情がいまだに忘れられません。

深すぎるトイレ掃除の考察

忘れがたいのが2013年2月号のご寄稿です。テーマは「なぜ、トイレの清掃が会社の業績に結びつくのか」。トイレ掃除を徹底すれば業績が上がるの??という、多くの人が抱く疑問を、加護野先生は見事に理論的に考察されました。少し紹介させていただきます。

効果その1 黙々と掃除をするリーダーがいると、そのリーダーへの尊敬心が高まる。
効果その2 人が嫌がる仕事をやっているうちに、「どんな仕事でもやりがいを見いだすこと」ができるようになる。
効果その3 職場や会社への愛着を高める。
効果その4 トイレを使う人が気持ち良く用を足せる。
効果その5 掃除の時間に沈思黙考の効果がある。

「理念と経営」2013年2月号

そして6つ目の効果が見事過ぎます。以下、引用します。

効果がはっきりしている活動は誰でもする気になる。効果がはっきりしなくても、それに真剣に取り組もうとする経営者の姿勢が多くの人々の心を打つのである。それに取り組みはじめた人々も、報いられないと思っていた活動に取り組むことのすがすがしさに気づくのである。

「理念と経営」2013年2月号

どうですか、この考え方! 効果がわかりきっている活動なんて面白くありません。わからないから面白いのです。トイレ掃除も然りというロジックに、ハッとさせられました。

そうそうたる「加護野チルドレン」

また、先生は優れた指導教官でもありました。思いつくところでは、『トイレ掃除の経営学』の著書がある大手前大学の大森信教授、『京都花街の経営学』を著した近畿大学の西尾久美子教授、プロレスのドラゴンゲートを事例に取り上げた『ゼロからつくるビジネスモデル』を上梓されている早稲田大学の井上達彦教授も加護野先生の教え子です。私は密かに「加護野チルドレン」と呼んでいます。

『京都花街の経営学』は、なぜ京都の老舗料亭が「一見さんお断り」なのか? など思わず膝を叩いてしまう内容満載で、機会があれば西尾久美子先生にも取材したいと考えています。

こうした、かなりユニークな研究をする教え子を輩出したのも、加護野先生の功績です。おそらく「その研究テーマは面白い。ぜひ研究を進めなさい」と後押しをしてくれたに違いありません。常識の枠にとらわれない教育は、中小企業の人材教育にも共通しています。

加護野先生スピリットを受け継ぎ、「こんな面白い取り組みがあるよ」という事例をどんどん見つけて、誌面で発信していこうと、決意を新たにいたしました。


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