【第0回】推しの子 ~1-7話 「バズ」~
ごあいさつ
はじめまして。
久しぶりの方はお久しぶりです。
以前noteで声優志望者の支援を行っていたリンダ(旧:RinDa)と申します。
当時はコロナ禍で暇を持て余していた(もちろん仕事がなかったのが原因だが)ので、X(旧Twitter)上のアカウントで、声優志望者の方のセリフ音源を添削したり、演技についてエラそーなことを語っていました。
コロナが明けてだいぶと需要が減ってきたことを機に活動を辞めていたのですが、今回、気まぐれで再開させる運びになりました。
今回は、『声優演技解説』と称しまして、最新のアニメを見て思った感想を述べながら、声優の演技についてフォーカスし、その良さを分かち合うことが目的になっています。
もちろん、声優志望者の方にもタメになるようなお話もしていきたいですね。
他にも、声優志望ではないが声優の演技についてもっと知りたい方、語りたい方にエンタメとして記事をお楽しみ頂けたら嬉しいなーって感じです。
万が一、億が一、現役の声優さんや出演者の方の目に触れる可能性もあるとは思いますが、あんまり気にせず、「ここのセリフが難しい」とか「ここはこういうテクニックが使われている」とか私の目から見た声優さんの演技について語っていきたいです。
推しの子 1-7話「バズ」
「最新のアニメ」とか言っておきながら、第0回は2023年5月放送の大人気アニメ「推しの子」の第7話です。もう一年以上前なんですね〜。
今回はどんなふうに解説を展開していくかわかりやすそうな題材を選びました。次回からは途中からにはなりますが、最新クールを追いかけていきたいと思います。
取材をしよう
こちらは主人公・星野アクア(c.v.大塚剛央さん)が出演することになった恋愛リアリティーショー「今ガチ」編の終盤一歩手前。起承転結で言うところの「転」に当たるところです。
恋愛リアリティーショー編は、「SNS」と「炎上」が大きなテーマとなっています。
この段階で「テラスハウスの話だ!」と勘づけたら、話やキャラの考察にめちゃくちゃ役立つと思います。
こういった取材のようなことは大事です。とりあえず、記事とかを読んで状況を理解しつつ、被害者の方に思いを馳せてみましょう。自分の中でそれを表現への動機にまで出来れば最高ですね。
特に今回のように、お話自体が実話をゴリゴリに意識している場合は、必須と言ってもいいです。
「有馬かな」という役どころ
正直、かなちゃんのキャラは大変ですね。メインヒロインの一角だし、ツッコミ役だし、繊細だし、性格悪いし、真面目だし。そもそも有馬かなとして、色んなことに気づいたり考えたりしなきゃなので、台本読解の時点で時間がかかりそう。
ま、それだけ魅力的だということだし、演じていて楽しいのだとは思いますが。
雨宮吾郎の価値観
切り替わりのあかねの泣き演技はとてもいいですね。収録時、画がどれだけ出来ていたか分かりませんが、動きともめちゃくちゃ合ってます。ああいう感じで赤ちゃんみたいに泣かれるとちょっと安心できるの不思議ですよね。
そして、アクアのセリフが来ます。
アクアと言うより雨宮吾郎としてのキャラクター性を表現するセリフですね。
ここの「人」が意味する人間が誰になるのかで、セリフの重さが変わってきます。
候補としては「さりなちゃん」「吾郎(自分)」「アイ」「不特定の患者さん」の4パターン。声優としては、基本的に全部パターン用意して練習しているんだと思います。でないと、現場で対応できませんからね。
ざっくり決めるなら「さりなちゃん」なら"やるせなさ"、「アイ」なら"怒り"、「吾郎」なら"虚しさ"、「患者さん」なら"フラットに"と言った感じでしょうか。
画を見る限りでは、無表情って感じなので「患者さん」がメインで演じる流れですかね。
つまり、どんなに手を尽くしても人は〇ぬ、でも助けられる命は助けたいという医者としての価値観が現れたセリフなんだという表現だったと思います。
この辺りのアクアは徹底的に感情を載せない引き算の芝居ですね。ませてると言うか、冷めてるというか。
ゆきの感情
ゆき(c.v.大西沙織さん)があかねの元に駆け寄って、あかねを叱るシーンですが、個人的にゆきの感情が淡白なものに感じられました。
ここで感情を強く出して「心配してた」とするのが直感では良いのではないか?とも考えたのですが、抱きついて振り返るシーンで、ゆきの顔が異様にかわいいんですよね。
鼻水出るくらいちょっとブサかわくらいならグワングワン泣いててもいいんですが、このキレイな顔を見ると、このシーンもちょっとパフォーマンスが入ってるのではと解釈できます。
ゆきが、「他人からの見え方を計算して仕事に取り組んでいる」というところが表現されているって感じですね。
腹黒そうな立ち回りですよね~
「あざとい」というか……笑
ただ、ゆきに関してはそういった描写はなく、ホントに人懐っこいだけで、友達が多くて世渡りが上手そうだなって感じですね。
単純なセリフほど見えてくるもの
この辺りのあかねのセリフは、石見さんの魅力が際立つセリフですよね。
引っ込み思案なキャラが勇気を振り絞る感じは感動せざるを得ないですね。
声優としては、こう言うセリフは分かりやすく、心情を表現するためのセリフも間尺もあるので、のびのび芝居ができるシーンです。
ですが、分かりやすいがゆえに、役者の魅力が如実に現れますよね。
アクアというキャラの喋り方
ここでアクアというキャラがなぜ、このような話し方になっているのか考えたいと思います。
先程も触れましたが、アクアは徹底的に引き算の芝居ですよね。
感情に起伏を見せず、物事に動じない。
そんなイメージになっています。
この声を再現するのは簡単です。
くぐもった発声で、比較的ゆっくり言葉を真っ直ぐに飛ばせばいい。
しかし、それではお芝居にならないので、アクアというキャラの掘り下げが必要です。
ざっと考えるに以下の三つの要素が考えられます。
①そもそも大人である
②明確な目的がある
③強い執着がある
まず①ですが、これは彼が転生者で元は病院勤めの医師という設定から分かります。ざっと計算しても、元30歳そこそこの17歳の高校生なので、47年くらい生きていることになりますね。
それだけ生きていれば、声も話し方もだいぶと落ち着いていて当然ですね。
②は、「アイを〇した犯人を見つけ出す」という明確な目的のことですね。
目的が明確化していれば、何をすればいいか判別しやすくなります。
やればいいことがわかっている人間ほど、物事に動じにくく、メンタリティが高くなります。
そして③は、それらの行動の原動力がネガティブなものであるということです。
現在放映中のエピソードでもフォーカスされていますが、アクアにとってアイはトラウマの一つであり、思い出したくもないことなのです。
それに対峙するというのは、人をかなりネガティブな気持ちにします。
つまり、それを目的に据えているアクアは常にネガティブを抱えている状態なのです。
よって、放映されたようなアクアの話し方になっているわけですね。
こんなことわざわざ言葉にする必要は無いのかも知れませんが、分析して整理しておくことは自分が演じる時の重要な材料となります。
分析が正しいかどうかは置いといて、自分なりに整理しておくことは日頃から大切にしたいと考えてます。
黒川あかねがする役作り
特にこれといったセリフは無いんですが、MEMちょの「広告代理店風に言うと~」とか「それってB小町のアイだよね」とかで年齢サバ読んでる感が自然に出てるな~って思います。
あと、アクアがディレクターに映像の提供を持ちかけるシーンは、個人的に好きなシーンです。
制作側の大人の事情は理解できるが、相手は人間だし、まだ子どもなのだから、大人として守ってやらないといけないというのは、現代社会に向けた良いメッセージですよね。
これを真に受けた黒川あかねは、役になりきるために役作りを始めます。
このシーンを見てると、「本当はこのくらいやる必要があるんだよな〜」とは思いますが、声優としてはこのような役作りは過剰な気がします。
そもそもあかねちゃん、心理学について明るすぎるよね笑って思いました。分析の仕方と言い、やっていることはメンタリストとか臨床心理士とかカウンセラーの領域に感じます。
もしかしたら舞台役者の方なのであれば、普通にこのくらいのことをやってるのでしょうか?
似せる演技
さて、ここであかねがアイ演じて、お茶の間の皆さんを湧かせるわけですが、ここは原作の展開、アニメの演出が凄まじいですよね。EDの入り方なんてこの回のためにタイアップされたかのようなハマり具合でした。言うなれば、それほど制作側が気合いを入れたシーンだということです。
さて、そこに華を添える声優はかなりのプレッシャーがかかるわけですが、これが難しい。
ここであかねに期待される芝居は、「星野アイを彷彿とさせるほどの黒川あかねの芝居」の芝居なわけです。
要は、「アイに似てるけど、あかねであることが分かる」、そんなお芝居が要求されているわけですね。
ここで、「似せる」のバロメーターについて、僕なりの考えをまとめておきます。
「似せる」には2つのバロメーターがあると思っています。
1つは、音を似せること。
もう1つは、所作を似せること。
音を似せるというのは、わかりやすいと思います。この場合ですと、星野アイ(高橋李依さん)の声色を出すことですね。カラオケとかで言う「キーを合わせる」という表現に近いと思います。
「キー」以外にも「吐息の量」や「鼻のかけ方」、「喉へのかけ方」など、色々ありますが、要はSNSでよくある「声真似」だと思ってください。
そして、所作を似せるというのは、セリフへの入り方と抜け方、そして言葉の区切り方という音以外の要素のことを指します。
わかりやすい例で言うと、ドラゴンボールZのセルやサザエさんのアナゴさん(c.v.若本規夫さん)のマネをする時に、文節の語尾が伸びると思いますが、そのことです。
若本規夫さんのマネはとてもわかりやすいですが、今回の場合は、星野アイ(c.v.高橋李依さん)の言葉の癖を上手く捉えて再現できるかが所作を似せるということになると思います。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は「アイに似てるけど、あかねであることが分かる」という演技が求められています。
つまり、音はあかねで、所作はアイで演じるということです。
とても複雑なお芝居が求められるわけですね笑
私はこの手のお芝居の完成形は「昭和元禄落語心中」の与太郎を演じる関智一さんの演技だと思っています。第2期の第8話の落語「芝浜」を披露するシーン。
音は関智一さん演じる与太郎のものですが、お芝居の所作は劇中で稽古の題材となっている助六(c.v.山寺宏一さん)のものになっています。
これは初見の時、身震いした記憶があります。
そっくりだと思われてもダメ、別人と思われてもダメ。
わずかに受けての琴線に触れるだけでのお芝居。
このあかねの憑依のシーンは、役者の実力を試されるかなり味わい深いシーンなのです。
さいごに
いかがでしたか?
このように声優目線で見た、アニメにおける声優演技の解説を今後シリーズ化していきたいと考えています。
玄人向けというか、物好きな人向けという感じになるかもですが、気軽に楽しんでいってください!
では、第1回でお会いしましょう!
ありがとうございました!