『錯乱』
研究室。真っ白な文章作成画面をただぼんやりと見つめている。
カーソルが点滅するのを、その淡々とした動きを、表情のない瞳で見つめ続けている。
────私たちはこれと同じようなことをしている。
何となく思いながら、人差し指でキーに触れた。ぽんと改行され、カーソルが一行分下がる。
そしてそれはまた一定の間隔で点滅をはじめる。
「…………」
改行。改行改行改行。真っ白な画面は長く伸びていく。
そうして最終行にはいつも、無機質に点滅するカーソルだけが残る。
気持ちがいいだけ。何も生まれない。私たちはそんな行為を繰り返す。それどころか、嘘や裏切りなんて要らないものが蓄積されていくばかりではないのか。ならばこれは大きな罪だ。いずれこの身を蝕んでしまうに違いない。解っているんだ。
ふっと点滅から目を逸らす。
Back space の文字を軽く撫でると、カチャッと小さくへこむ感触がした。伸びた改行が素早く削除されていくのが横目に見えた。
こんなにも簡単に……だが私たちはこうはいかないのだ。こんなキーひと押しで無かったことにできるような、そんな単純な関係ではすでにない。
『研究室に来ないか?』
私が目を逸らしているあいだに、キーボードに置いた指が勝手にこんなメールを飛ばしてしまうほど、やっかいなことになっている。
どうしてはじめた頃のようにできないのだろう。線の引き方を忘れてしまった。
私の式は最初からどこか間違っていたのかもしれないと記憶を遡りだしたところで、コンコンと聞き慣れたノックの音がして、また何も考えられなくなった。
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博士サイドです
真夜中の思考錯乱
だめな大人ふたり、どんどんアダルティックに足をとられて、身動きできなくなってしまってほしいとおもいます