「移り香」 ~ 顔うずめる時 ~
「自分の枕の匂いっていいよね。ときどき突っぷしてクンクンしたくなる。」
私は「へーえ」と応え。そして、恥じた。
よそよそしいくらい洗い立てのリネンやTシャツに、ホッとする気持ちは変わらない。でもその時の言葉には余白も何も無くて、千の天使が聴き耳を立てた気がした。
ソンナトキモ、アルカモネ
ソンナトキモ、アルカモネ
私はただ狭く小さく、そして斜めだった。
*
久しぶりに長い風邪をひいている。
ふと思い出して枕に突っ伏してみるが、深呼吸する気持ちにはならない。
湿った枕カバーを洗濯機に放り込み、微熱を押してベランダまで枕を干しに出向く。
うとうとしながら、なぜだか黄色いフリルと小花の模様が浮かんだ。
子供の頃よく勝手に寝ていた母のベッド。そこにあった大きな枕。
私はうつぶせで寝るのがクセで、洗い立てとは言えないその匂いが好きだった。
くやしかったり、さびしかったり、子供なりの理不尽に憤ったり、あれが私のソンナトキだったのかも知れない。
「枕の匂い。ときどき突っぷしてクンクンしたくなるよね。」
こういう話は余裕がある時にするものだ。
でも時間はお構い無しに過ぎて行く。小さな後悔なんて天使しか知らない
その人は私より少しだけ「自分好き」だっただけかもしれない。
【連載】余白の匂い
香りを「聞く」と言い慣わす”香道”の世界に迷い込んで十余年。
日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」
前回の記事: 「慈雨」 〜 Calling you 〜
【著者】Ochi-kochi
抜けの良い空間と、静かにそこにある匂いを愉しむ生活者。
Photoマガジン始めました。「道草 Elegantly simple」
続きが気になる方は
OKOPEOPLEとお香の定期便OKOLIFEを運営するOKOCROSSINGでは、OKOPEOPLEの最新記事やイベント情報などを定期的にニュースレターでお届けしています。記事の続編もニュースレターでお知らせいたしますので、以下のフォームからご登録ください。
編集協力:OKOPEOPLE編集部