幸せになりたかった
幸せになりたかった。
「お前なんて生きる価値が無いんだよ、早く消えろよ」
と私に言う、意地悪な人達よりも幸せになりたかった。
「あんたなんか産まなきゃ良かった」
と私に言う、私の事が嫌いな母を悔しがらせたかった。
どうやったら幸せになれるかが分からなかったから、
周りの人達に嫌われないように、
一緒にいる人に好かれるように、
鏡の前で口角を上げる筋トレをしたり、
相手が望んでいる人物になれるように努力した。
期待されるままに、一生懸命に勉強をしたし、
必要とされるままに、一生懸命に仕事をした。
幸せになる為に、自分の考えを殺して、
本当の自分を知られないように隠して、
相手が望む理想の○○を、演じていた。
努力すれば努力するほど、本当の自分が分からなくなり、
努力すれば努力するほど、好かれているのか不安が募り、
自分という存在は相手にとって必要なのか、
相手が見ている自分は一体誰なんだろうか、
幸せって何だろう・・・
周りにいる人達は、みんな幸せそうなのに、
私だけ分厚い透明なガラスの箱の中にいて、
大声で叫んでも、めちゃくちゃに暴れても、
誰にも気付いて貰えないような気持ちだった。
ある日、突然、鬱病になったの。
何もかもが、緊急停止。
ベッドに寝たまま、天井は見えるのに、身体が動かない。
横の壁を見ると、時計が見えて、時間だけが進んでいく。
今日も仕事に行かないと。
起きないといけないのに。
あぁ、もう遅刻する時間。
どうしよう、起きないと。
視界がグルグル回って、目をつむっても回っていて、酔う。
仕事が開始する時刻になってしまって、
「今日は休みます」って電話しようって思ったら、
やっと、金縛りが解けたみたいに、身体が動いた。
その日から、一切、仕事に行けなくなってしまった。
ただ仕事ができなくなったどころか、
予定が詰まるとパニックになるから、
普通の日常を送る事も難しくなった。
一日に2つ以上の予定を入れられない。
ホームに来た電車になかなか乗れない。
気持ちが焦ったら思考がフリーズする。
簡単な夕飯を作るというだけでも、4時間以上かかる。
(これは今でも、夕飯作りは3時間以上かかる・・・何故)
全てにおいて、忘れっぽいし、行動がポンコツ過ぎる。
仕事も失ったし、思考も動きも鈍くなったし、
自分の価値が完全に消えてしまった気がして、
友達にも会いたいって思えなくなってしまい、
恋人にも「別れてください」と言ってしまい、
今まで頑張って築き上げてきた物が、
全て消えたしまったような気がした。
全て手放して、
「幸せになりたい」っていう願いも手放して、
ただ、足元を見て、右足、左足、右足、左足、
一歩一歩、目の前にある道を、黙々と歩いて、
何も考えず、自分にできる事だけしていたら、
ふと隣を見たら、距離を置いていた友達が、
心配そうに、私を見守っていてくれていた。
「私には価値が無いから、別れてください」
とお願いをして、別れて貰っていた恋人が、
「職場が遠くて、職場の近くに住みたいけど、
自分は家事ができなくて困ってるんだよね。
俺の代わりに家事をやってくれないかな?」
って、言ってくれた。
好きでいて貰えるように頑張っていなくても、
「一緒にいよう」って言ってくれる人がいて、
何もできなポンコツの価値の無い私のことも、
「一緒にいたい」って言ってくれる人がいた。
「幸せになりたい」っていう願いを手放したら、
私の隣に、ちゃんと、幸せは存在していたんだ。
あれから、何年が経ったんだろうか。
あぁ、もう、17年くらい経つのか。
もうすぐ、結婚17周年。
話し掛けても目も合わしてくれない、塩対応で、
私の事が好きなんだか嫌いなんだか、不透明で、
でも、私が本当にピンチの時は、救ってくれて、
無口で無表情で、何考えてるか分からないけど、
こんなポンコツな私と、まだ一緒にいてくれて、
・・・
まぁ、うん。
・・・
うん。
ね。
・・・
ありがと。