第3話 一期一会 〜靴職人見習いの日常#1〜
いらっしゃいませ。
春を感じさせる麗かな日の光が、店内を明るく照らしていますね。
あのおばあさまにお会いしたのも、このような天気の良い日でした。
本日は、靴の修理にいらっしゃった素敵なおばあさまのお話をしましょう。
一期一会
お客様、一期一会の経験をしたことはありますか?
一期一会とは、茶道が由来のことわざ・四字熟語ですが、「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」という意味でも使われるようです(出典 Wikipedia)。
靴屋にて
おばあさまとの出会いは、まさにそのような出会いでした。
「すみません、これ、どうにかならないかしら。」
困り果てた様子でお店に入って来られたおばあさま。その足元を見ると、靴底が、つま先以外すべて剥がれていました。このまま歩けば、靴底がすべて剥がれたり、どこかでつまずいて怪我をしたりしてしまう恐れがあります。
お客様の目の前で修理をしたことがなかったので、とても緊張しましたが、幸い、道具は揃っていましたので、修理いたしました。
「今日はお出かけですか。」
「近江牛を食べに観光に来たのよ。」
修理の間、たわいないお話をしていると、地元が同じだということがわかりました。
私は普段、靴工房にいて、2週間に1度だけ店舗当番をします。偶然その日に、観光に来たおばあさまと出会い、偶然2人の地元が同じ。こんな奇跡的な出会いがあるものなんだと感動しました。
靴の修理も順調に終わり、おばあさまもすごく喜んで、観光に行かれました。
閉店の作業をしていたところ
お話はこれで終わりではないんです。
夕方、お店を閉めようとしていたところ、ガラガラと扉が開きました。
「お姉さん、これ、さっきのお礼に」
観光から帰って来られた様子のおばあさまが、そう言って私に手渡してくれたもの。
観光地で売られているバウムクーヘンでした。
観光している間も、私のことを覚えてくれていたんだ、、、お客様の目の前での修理は緊張したけど、頑張ってよかった、、、
まさに一期一会。素敵なおばあさまに出会えて、心がほっこりと温かくなりました。
最後に
もちろん、手土産をくれるお客様だけが素敵だというお話ではありません。ただ、靴職人を始めて間もない私にとって、とても励みになる出来事でしたので、記録としてお話したかったのです。
こちらが、おばあさまにいただいたバウムクーヘンです。お客様もよければ、ご一緒にいかがですか。
それでは、引き続きごゆっくりお過ごしください。