『山本耀司』 -服だけでなく曲にもこだわる理由-
・初回の投稿は山本耀司さん(以下敬称略)の曲について投稿したいと思います。
先月17日に行われた20awのコレクションでは、井上陽水「傘がない」、ケルティック・ウーマン「you raise me up」、熊本の民謡「五木の子守り唄」の3つに加え、自身で作成した1曲が使用された。you raise me up以外の3曲については、山本耀司自身によって歌われたものである。
さて、ここからは山本耀司の曲の魅力について触れていく。
彼の曲の魅力とは、戦後を服飾を生業に生き抜いた男の直線的な歌詞と、自分の人生経験を語るかもような時に穏やかで、時に情熱的な歌い方にあるのではないだろうか。この2つが渾然一体となることで、山本耀司の人生を3次元的に表現した1つの曲が完成する。
直線的な歌詞の曲を作るようになったのは、彼が尊敬していると語るブルースの影響が大きい。ブルースとは、フィールドハラーやワークソングから発展した哀歌のことである。4分の4拍子に乗せた暗くも希望に満ちた歌詞は、古くから人々を勇気付けてきた。彼がブルースを尊敬するようになったのは、モロッコのマラケシュの訪れた際、丘の上で歌う老人を見たことがきっかけだという。お金のためでなく、ましてや人に聞かせるわけでもない老人の歌は、何からも縛られない自由さを感じたのだそうだ。その歌に込められた老人の人生と、心のすみの黒い部分を吐き出すブルース独特の歌い上げが、彼の心を動かしたのではないだろうか。その後行われたインタビューでは、”自分が好きな曲は、ブルーで、暗くて、泥臭い曲なんです。“と語る山本耀司であった。
また、自分の人生を語るように歌うのには、彼の曲に対する考え方が強く影響している。彼は自身の歌について、”ミュージックではなくメッセージだ。“と述べており、”曲を作ることに価値があるのではなく、曲に乗せメッセージを伝えることが重要なのだ。“とも言っている。そこにメッセージがあるからこそ曲は曲たりえるという考え方は、分かっているようで気づくことが難しい真実なのではないだろうか。彼の人生に波があるように、彼の人生を歌うブルースは、時に憂鬱で、時に情熱的である必要があるのだ。
山本耀司がモロッコの老人の歌を聴いて心を掴まれたように、今我々が山本耀司の曲を聴き心を掴まれている。技術の発展などにより人というものが感じにくくなった今だからこそ、人生やメッセージといったものに耳を傾ける必要があるのではないだろうか。
・最後に、私の好きな『心のそばの胃のあたりを』という歌の歌詞を残し、終わりとさせていただきます。
『心のそばの胃のあたりを』 -山本耀司-
心のすみの胸のあたりが
いつでもかなしいその訳は
若いと言われたあの頃は
もう少し自分を好きだったし
何かを夢中で探していたからかもしれない
鏡に向かって笑ってみたら
男の抜け殻が写ってた
いつまでも身体ばかり元気だったら
やりきれないだろうと思うし
いつまでも髪がフサフサしてたら
やってられないだろうなと思う
少年のように頼りなく
さびしいようなおかしいような
少年のように年老いて
悲しいようなステキなような
心のそばの胃のあたりが
それでもシクシクする訳は
生きて汚した自分のまわりと
傷つけてしまった人達に
少しは済まないと思うせいかも知れない
一生懸命生きたことが
なにかの弁解になるだろうか
勝手に張り切って疲れた俺は
みんなの笑いものになるのだろうか
今になって気がつっくのだけれど
こんなに遠くへ来てみて
少年のように頼りなく
さびしいようなおかしいような
少年のように年老いて
悲しいようなステキなような