妻が脳梗塞になった#1
【脳梗塞発症】
元々高血圧ではあり、検査は定期的に行っていた。毎度特に異常は見当たらず、血圧もたまに上がるくらいで、ほぼ一般と変わらない数値であった。しかし40代でも脳梗塞は突然やってくる。妻は突然キッチンで座り込み、聞けば子どもに最後の力を振り絞り、「119に電話をして」と妻は伝えた。喫緊した状況に小2の娘も察したのか、声が小さく呂律が回らない状態で喋っていた妻が「足が……動かない」と言えばスマホをスピーカーにして「足が動かない」と119の担当に伝え「頭が痛い」と妻が言うとそれを伝えた。私は不在であった。
程なくして救急車は到着し緊急搬送、緊急入院である。
【ドラマはそこにある】
ドラマやアニメのワンシーンでよくある。
「もう君はピアノを二度と弾く事は出来ない」
妻はチャンネル登録者数50人の超底辺YouTuberになり、これから色々な動画を上げて宣伝して生徒さんを集め、ピアノ・エレクトーン講師を独立してやっていこうとしていた矢先の出来事であった。
もちろん教える曲はもっと優しい物であるだろうが、ファイナルファンタジーの超速難解曲ビックブリッジを2ヶ月にわたり練習をして挑戦しようとしていた。しかもスクエニ公式で演奏している「ピアニート森下唯さん」の楽譜で練習していた。しかも森下唯さん、実は楽譜通りに弾いておらず更にアレンジを入れてYouTubeには出している。そのアレンジも耳コピし、いよいよ発表出来るレベルに到達しかけて脳梗塞は襲って来たのだ。
本人も絶望、家族も絶望。
鍵盤楽器を生業にしてきた妻の左半分が動かない。エレクトーンは左足も使うのでベースが踏めない。
「妻はピアノを弾けるようになりますか」と担当医に聞いた。
「難しいかもしれませんね」と予想通りの答えが帰ってきた。
【今の病院は簡単に面会出来ない】
今の病院、入院したら面会など簡単に出来ない。どんな状態であろうともそれぞれの病院で「きまり」がある。
実は妻の母親も5年前に脳梗塞で倒れた。
それから症状が悪化し、ついには「失禁」してしまう状態にまで悪化してしまった。
そこから介護を受けれる事になり、リハビリも週3で行くようになり回復に向かっていった。
しかし、肺炎にかかり１ヶ月入院したのだが、羞恥があるため寝ながら大が出来ず、痒くなった尻を素手で触り、手が大まみれになるという理由で拘束具が付けられた。それが１ヶ月続いたそうだ。
幸い余程の事がなければ今いる病院は拘束具を付ける事は最終判断であり、あくまでも拘束具をつけるのはタバコや酒の禁断症状で暴れてしまうため、医療従事者の安全を確保するためであることが多いと説明を受けた。
病院によって遥かに待遇や考え方が違うとここでわかった。
今回の病院の面会は週に2回。14:00～16:00まで。１回15分。月～金で祝日を除く。
祖母の場合は面会はオールNG……
そして必要な物は、19:00まで届けられる。
スマホは貴重品のため自己管理が出来なければ使えない。ただ機内モードにしなくてはならないが、ICU内で使えるよう許可もしてくれた。
因みに祖母へスマホを渡したら当時妻へ毎日午前3時に電話が出るまで鳴る事になった。
【脳梗塞をググる】
脳梗塞は、2割は問題なく生活が出来る。7割は何かしらの障害が残る。絶望しかない。性格も変わる可能性もあると言う。
妻の脳梗塞は前頭葉。前頭葉で起きた場合、心配性であった性格が改善される可能性もある。プラスに働いてくれれば良いが。
入院も2ヶ月半くらいが平均。
医療費は50万前後。
障害給付金58万は最低もらえる。
押しに弱い妻は何故か医療保険を2つも入っていた。
うん。退院後の金銭問題はなんとかなりそう。
連絡も取れず説明があるまで会うことは出来ず病状もよく分からない。
出来ることは限られておりお祈りだけであった。
【金と愛と現実と】
脳梗塞になりお金問題、生活問題、そして愛の問題を放り投げられ決断を迫られる。
「気持ちの整理がつかない」
「何からしてやれば良いのか考えられない」
「お金をどうしたら良いか分からない」
「そして俺はどこまで妻を愛しているのか、その愛をどこまで形にできるのか、実行出来るのか」具現化する事がどこまで出来るのかを考える事となる。
入院初日。私は何も決められず、自分の無力さを痛感し、次の日面会に行ってあげる事しか出来なかった。
夏休み中ではあったが子どももいる。
とりあえずは仕事に連れていき、幼児は祖父母へ預けた。
半年入院なら社保はあるが100万はかかる。
妻本人とも話が出来ないから医療保険もどうなっているか分からない。
家事は任せていたから全部やらなくてはならない。それにプラスして必要な物を届けたり、手続きもしなくてはならない。
その時に倒れる前の妻の行動を考えた時に答えは決まった。
「よくやってくれてたな。最大半年間、できる限りの事はしよう」
何から手をつければ良いのか分からない。妻がどうしたいか、とりあえず子どもに飯を与えながら、脳梗塞になった家族の情報を集めた。
続く
凛1129