歌詞と呼ぶにはあまりに抒情的、ハヌマーン『アパルトの中の恋人達』
*ヘッダー:REGRESSIVE ROCK by ハヌマーン
彼らの音楽を初めて聴いたのは、いえ正確に言えば彼らのコピバンですが、大学1年の3月でした。
卒業しちゃう4年生の先輩が涙を流しながらスリーピースで演奏していた姿は今でも忘れられません…
flumpool、ベボベ、バンプしか知らない状態で入部した軽音サークル。おかげで今では色んなジャンルの色んなバンドを聴くようになりましたが、ハヌマーンはその中でも「人生で出会えてマジでよかったバンド」の頂点を飾ると声を大にして言えます。
そんなハヌマーン、なんとついにサブスク解禁されましたね!!!(歓喜)(大歓喜)
うれしくて小躍りする勢いです。毎日聴いてます。
彼らの音楽は本当にカッコイイ。そして抒情的。語彙力がないのでこんな単純な言葉でしか言い表せませんが、マジでカッコイイ。ほんとは人にオススメしたくない、でも知ってほしい。そんな複雑な感情を抱いてしまいます。
タイトルにも書いていますが、彼らの歌詞は「歌詞と呼ぶにはあまりに抒情的すぎる」んです。マジで。小説かよ…!と胸がキュンキュンざわざわしちゃいます。
お気に入りの曲はたくさんありますが、今回はその中でも特に抒情的(何回目)で切ないナンバーを。
ハヌマーン『アパルトの中の恋人達』 from REGRESSIVE ROCK
この曲、ほんとにすごいんですよね(語彙力)
あるカップルの彼氏と彼女、それぞれの心情が交互に描かれています。しかもその描写がリアルだし、情景が瞼の裏にめちゃくちゃ鮮明に浮かぶんですよ~~~!
この曲が収録されているアルバムのジャケット(↑でリンク貼っている動画のサムネ)のおかげで私の脳裏に浮かんでいるアパルトがまさにこれ。それを意図していたのかはわかりませんが、ていうかおそらくこの曲がモチーフなんだと思いますが、とにかくこれが私の想像力を助けてくれてます。
1番は彼氏側の目線。とりあえずすべて書きます。
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❝彼女の寝息を確かめたあと 部屋を出て夜を吸い込んで
戦争が起きたらどーしよーとか 脈絡のないこと考えてた
誰も知らない所で虚しく色を変える夜の信号は
まるで今の自分そのものだった もたげる首の角度までおんなじだった
予定のない今日の月の形 夜にかじられたようなそんな形
あの月はなんて名前なのかな 理科の授業もっとちゃんと聞いとけばな❞
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正直これだけ見れば、まだ「ああなんかちょっと無気力で頭弱めな大学生(くらい)の歌なんかな」程度の感想でしかないんですけど。
いかなる曲でも、1番だけではその曲の真価は発揮されません。フルで聴いてこそ。もちろんこちらも例にもれず。
2番は彼女側の目線。
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❝古い人形抱いたまま眠って 目が覚めたら彼は部屋にいなくて
浴槽のお湯流したっけだとか 明日の朝食のこと考えてた❞
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わかります? このわずか2行に男女の考えの差が如実に表れてますよね。
彼氏は戦争起きたらどーしよーとか脈絡のないくだらんこと考えているのに、彼女は現実的なことを考えてる。
これって普段の私たちでもそうですよね。小学生でさえも女の子は男の子より成長が早くて、はしゃいでる男子を横目で見ながら「男子ってバカよねー」とすました口調でぼやく。大人でも将来をいち早く見据えているのは女性のほうのような気がします。
それから、“目が覚めたら” のあとハイハットのみになりますよね。
深読みのしすぎかもしれませんが、そこに部屋に誰もいない静けさの中で時計の秒針の音だけがこだましている様子が感じられて、なんかこっちまで心細い気持ちになりました。
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❝守られるか無視される以外には 用途のない夜の信号は
ああなりたくないと思う女子そのものだった
不憫そうな姿までおんなじだった❞
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「夜の信号のようだ」と思っている彼氏。「ああなりたくない」と祈る彼女。
同じ信号に対して、どちらも物悲しい雰囲気を感じ取ってはいますが、微妙にニュアンスが違います。
彼氏のほうには、「彼女の眠るアパートを離れて項垂れ、その彼女との関係に悩む自分」に夜の信号を重ねている心情、
彼女のほうには「あの信号のようになりかけている自分」を「不憫に思っている」という心情が窺えて、このとき私は「うおお山田亮一(ボーカル)すげえ…」となりました。どっちも同じ信号に自分を重ねる似た者同士なのにね。
ていうか信号を「守られるか無視される以外に用途がない」なんてこんなふうに表現できます? 私の拙い想像力と語彙力では「衝突を避ける巨大な鉄塊」みたいな本来の用途の説明しかできません(ザコ)。着眼点がほんとにすごい。第三の目とかあるんじゃね?
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❝星屑の点を線で繋ぐように あなたとの日々も意味を持つかな
臥し待ち月が出てるからでしょう? やけに叙情的になってしまうのは❞
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ここでも対比されてますね。月の名前が知らなかった彼氏と知っていた彼女。
この『臥待月』は、横になって待たないといけないほど出るのが遅い月だそうで、俳句に使われる折には月そのものではなく月が出るのを待つ心のほうに意味があるのだとか。ふむ、美しいですね。
さて、ではなぜ山田亮一はこの曲に「臥待月」を選んだのか。
もちろん語呂や語感がよかっただけなのかもしれませんが、私はこう考えます。
1番の冒頭 ❝彼女の寝息を確かめたあと❞ 、この歌詞から、ああ、彼は何度も彼女が寝付いてから夜の帳へ飛び出していたのかな、と思ったのです。この歌詞からどことなく彼の常習性を感じたんですね。
そして彼女はそれに気づいていたのかな、と。それでいつも彼が戻ってくるのを横になりながら待っていたのかなあ、なんて思いました。
また、彼が彼女に真摯に向き合ってくれるのを気が遠くなるほど、それこそ臥待月が出るのを待つくらいの長い間をずっと待っていたのかな、と……
だから臥待月を見て叙情的になってしまうんだろうなと理解すると、夜の信号のような存在になりつつある(そしてそれを自覚している)彼女に憐憫の情を禁じえません。
それにしても ❝星屑の点を線で繋ぐように❞ っていう言葉、綺麗すぎると思いませんか?
この言葉の真意を私は某動画サイトのコメント欄で目にしたのですが、とても腑に落ちたので紹介させていただきます。
❝星屑の点を線で繋ぐように❞ この歌詞は星座を示唆しています。
情趣もクソもないことを承知で言ってしまえば、星座って誰かが神話にこじつけて無理やり意味を持たせたものですよね。
このことから、今まで私はあなたとの間に意味を見出そうとしてきたけど、果たして本当にそんなものあるのかな? これ以上一緒にいて意味はあるのかな?
彼女のそういう切実な思いが見え隠れしているように感じます。
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❝部屋に帰れば 彼女はまだ眠ってて
床に落ちた台湾製のそれと目が合う
アパルトの中の恋人達 愛し合うと言うにはおぞましいほど
醜い行為に果てた後で ざらっとする後ろめたさはなんだろう❞
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❝台湾製のそれ❞ っておそらくアレですよね。
なんか、それを使ったあとにゴミ箱ではなく床に捨てて、さらに彼女が眠るアパートを出て首をもたげながら夜を歩くって、もうなんか愛を感じられないですよね…
こういうところがすごくリアルだなと思うんですよ、いやそんな経験ないけど。外で彼女のことで悩んでいるので、ある意味彼女のことを蔑ろにしていないという意味にも捉えることはできますけど。
でも好きな人と結ばれたあとってその人にくっついて眠りたいですよね。それなのにぬいぐるみを抱いて眠って、目が覚めたら恋人はいないんですよ。切ねえ
ここらへんの歌詞から、このふたりの関係性はもはや体のつながりでしかないということがそこはかとなく伝わってきますね。
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❝例えばその薄汚れた人形 ボタンの目でいつも君を見てる
君の薄汚れた人形 毛糸の唇で笑っているよ
所詮中身はスポンジと綿だし
涙ぬぐい取るそのオンボロみたいに 僕はなりたい❞
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はーーーもうほんとここ………やばくないですか!?(大声)
彼と愛のない行為をしたあと(おそらく彼女にはまだ愛がある)、あふれる涙を拭ってくれていたのは古いぬいぐるみ……
スポンジと綿しか入っていない薄汚れた人形でさえも彼女の涙を拭ってあげられるのに、彼女を見つめて彼女に笑いかけてあげられるのに、それすらもできない俺って……、みたいな自己嫌悪ややるせなさがひしひしと伝わってきますね。
きっと彼が彼女に対して抱いているのは愛ではなくて情なんでしょうね。愛し合うというにはおぞましいほどの行為をするけど泣かせたいわけじゃない、けどもう愛することはできない。だからせめて涙を掬いとってあげたい。でもそれもできない…
実に人間臭い歌詞ですよね。こんな詩を書ける山田亮一ほんとに何者? どんな経験してきたん?という疑問が頭をぐるぐる回っております。
ここまで夢中になって語ってきましたが、どうでしょう、情景が頭に浮かんできませんでしたか?
たぶん、普通の生活してたらこんな歌詞思いつかないと思うんですよ。そりゃ作詞作曲をするミュージシャンなんだからちょっとした日常の風景や人々の行動に心が突き動かされることもあると思いますが、それでもなんでそんな視点でこんなに日常を切り取れるの?って不思議に思っちゃうんですよね。
あんまり褒めたたえると安っぽくなってしまうのでこれくらいにしますが、とにかくハヌマーンの曲は日々のストレスで荒んだ心を浄化してくれる存在です。
歌詞のことばかり書きましたがもちろんメロディもいいんですよ!
楽器の難易度は高めですが、『ネイキッドチャイニーズガール』や『アナーキー・イン・ザ・1K』などキャッチーなのもあれば、『幸福のしっぽ』や『若者のすべて』のようにどこか哀愁を帯びたものもあり、かと思えば『Fever Believer Feedback』『猿の学生さん』のようにゴリゴリにロックなナンバーもあり。飽きません。飽くはずがありません。
私は『ワンナイト・アルカホリック』が『アパルトの中の恋人達』や『若者のすべて』に並んでベスト3に入るくらい好きです。
いつか他の曲についての記事も書きたいなあ。
この記事で、もはや純文学に等しいハヌマーンの世界を知っていただければ幸いです。ぜひ皆さんの解釈も聞きたいところ。
それでは今度は臥待月の夜に会いましょう(?)
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