SESは本当に悪いのか?
SESという言葉を検索すると「SES やめとけ」とか「SES ブラック」という悪評が目立ちます。実際、多くの人が「SES企業は全部ブラック企業だ」とか「SESは消滅すべきだ」と言っています。
しかし、実は多くの人が「SES」という言葉を勘違いしているようです。そこについて説明しながらまとめてみたいと思います。
SESなんてダメだと言っている方々へ
実はその大半がSESそのものを理解していない可能性があることを明らかにします。
多くの人が批判しているのは、SESそのものではなく、「多重下請け体制」や「偽装請負」、「開発手法」などの問題を指しています。
SESとは「システムエンジニアリングサービス」の略で、ソフトウェアの開発や運用、保守などに従事する専門家たちの労働力を供給するサービスのことを指します。
その報酬は労働力への対価であり、労働者の指揮系統はSES事業者が担当します。主な契約形態は準委任契約で、これは納品物の完成を目的としない契約です。
つまり、SESの本質は、「多重下請け」でも「偽装請負」でもなく、「開発手法」でもありません。法規定に従い、きちんと管理や開発手法を整え、道徳的な運営を行っているSES事業者は、多くの人が考えている「SESは悪」とは一線を画します。
また、エンジニアを正規雇用ではなくSESで働かせる理由は、システム開発の性質と日本の雇用制度が複雑に絡み合っているからで、簡単に解決できる問題ではありません。
「システム開発をする企業が直接雇えばいい」とか、「全てを請負にして開発会社内だけで実施すればいい」という意見は、今回の話題とは異なるので、また別の機会に説明します。
世界中からのSESの批判に応答します
ネット上では、よくSESに対する批判が上がりますが、多くの人は「だからSES企業のエンジニアになるのはやめとけ」と結論付けてしまいがちです
しかし、実際にはその批判のほとんどが、SES企業の悪いところに焦点を当てているだけであり、SESそのものの問題ではないと言えます。そこで、よく上がる批判内容をいくつか取り上げ、それぞれ詳しく説明していきたいと思います。
ただのピンハネ屋で何の価値も提供しない
そうですね、この批判はよく言われることですね。
多くのSES企業は、契約の間に入って中間マージンだけを取って、実際には何も生み出さないと言われています。しかし、これはSES全体の問題ではなく、「多重下請け」の問題ですね。この批判について二つの点をお伝えしたいと思います。
まず、①についてですが、確かにそういった会社は多いのは問題です。しかしそれは、構造上存在すべきではない企業とも言えます。それでも、彼らが案件を獲得してくるためにはなんらかの手段が必要です。
もし、下層の企業がそれに不満があるのであれば、自社でその会社の営業能力を上回る案件獲得を成し遂げればいいのです。
次に、②についてですが、クライアントから案件を受ける元請けや1次請けには、中間マージンを取るだけの役割や機能性があります。これには、営業や与信、事務やプロジェクト管理といった機能が含まれます。
特に大手SES企業は、大手事業会社や公共団体の案件を獲得し、請負契約によって納品責任のリスクを負ってプロジェクトを管理します。小規模なSES事業者には、大手企業や国の案件を獲得する能力や、数十名の案件を管理するプロジェクト管理能力、数十名分の契約をこなす事務機能、トラブルが発生した際の対応・責任能力が不足していることが多いでしょう。
そのため、これらの機能性を提供するためにかかる人件費や会社の信用や与信は、中間マージンを正当化するものと考えられます。ですから、SES企業をただの「ピンハネ屋」と断定するのは適切ではありません。
もちろん、クライアントから2~3社以上離れたところでの人材調達においては、中間マージンのない「ピンハネ屋」も存在します。
ただ、すべてのSES企業が同じではなく、その中には価値を提供している企業もありますので、SES企業を一括りにすることは間違っていると言えるでしょう。
「偽装派遣」が蔓延し、労務管理が困難化している
偽装請負とは、労働者が他社から指揮命令を受けながらも、契約形態が派遣契約ではなく請負契約や準委任契約などになっている状況を指します。SES業界においても、このような違法な行為が存在していることは確かです。
しかし、これは主に常駐型のビジネスにおいて、所属するSES企業が業務や勤怠の管理を適切に行っていないことが問題とされており、こうした問題はSES企業自体の批判には直結しません。
ただし、ネット上で「偽装請負だ!」や「ブラックだ!」と一概に非難されている方々の中には、やや事例に詳しくないケースもあるため、こうした認識の違いについてもしっかりと説明させていただきたいと思います。
有給を申請するだけで取引先の承認が必要なのは偽装請負
言いたい気持ちは理解できますが、同様の状況はどの職種にも存在します。例えば、営業職でも有給休暇を申請した際に、重要な契約やイベントがある場合、上司は「その日の有給はできれば避けてほしい」と言うでしょう。
もちろん、顧客が「常に有給休暇なんて許さない!」という会社であれば、所属企業が対応しなければなりませんし、その顧客企業も問題があると言えますが、タイミングによっては、外部の要因で有給休暇が取りにくいこともありますね。
無理に残業させられる
言いたいことは理解できますが、まず自社に相談されましたか?業務上必要な残業であれば行うべきですが、指揮権は自社にありますので、「お客様からこんな理由で残業を依頼されていますが・・・」と自社に相談するのが先決です。
何もせずに「ブラックだ!」と騒ぐだけでは意味がありません。自分自身がSESの仕組みを理解し、対処しても問題が解決しない場合には、適切な機関に相談しましょう。
話が少し脱線してしまいましたが、批判自体はSESに限らない話なので、自分自身が対応すべきことを怠っている可能性もあります。焦点をそこに当てさせていただきました。
何にせよ、「偽装請負」という問題や、それに伴う労務管理の問題はSESそのものの問題ではなく、ルールを守っていないSES企業の問題ですので、SESそのものを否定することではありません。
実際、私の周囲には自社のリーダークラスのエンジニアや営業が現場とコミュニケーションを密に取り、自社に報告する体制を築き、労務管理を徹底している企業が多く存在しています。
労働時間が長くなりがち
SESの問題について話す際には、完全に否定することはできません。一般的に、SESの契約では月の稼働時間が一定範囲で決められており(通常は140〜180時間)、超過分は追加請求され、不足分は控除される仕組みです。
しかし、中にはクライアントが「180時間全部使わないともったいない」と考えて、無駄に残業させられるケースもあるようです。このような場合は、業務の必要性に応じて自社に相談することが重要です(指揮権は自社にあるため)。
この観点から見ると、SESだけでなく、裁量労働制の会社や固定(見込み)残業制度を導入している企業の従業員にも同じような考え方が適用されるため、SESに限った問題ではなく、日本の雇用の在り方全体を考える必要があるかもしれません。
一方、固定(見込み)残業制度がない場合、労働者が稼ぎたいという理由から不必要な残業が発生し、いわゆる「生活残業」と呼ばれる問題が生じる可能性もあります。このような問題は人間の心理に基づくものと言えるでしょう。
一方で、祝日が多い月や夏季休暇や年末年始休暇などのタイミングでは、最低稼働時間である140時間を下回ることがあります。この場合、一部の企業では「残業して140時間以上働け」と指示してくることもあるようですが、これは倫理的に問題があります。
自社の従業員だけでなく、クライアントに対しても不適切な行為ですので、こういった行動を取るSES企業を非難することは妥当です。しかし、休日が多いと、休日明けの連携ミスや他の問題が発生し、プロジェクトが遅れることもあるでしょう。
そのため、「休んだ分頑張るか!」と前向きに残業をすることで、結果的に最低稼働時間を上回ることもあります。したがって、残業そのものを否定するわけではありません。
したがって、この批判はSESそのものへの批判ではなく、別の話題として考えるべきです。
SESでは技術習得が難しい
ここで言われていることの大部分は、「未経験やスキルの低い人を適さないプロジェクトに無理やり割り当てる」という内容です。確かに、そういった案件はSESだけでなく、Web系企業でも起こり得ますし、大手企業でも逆の事象が起こり得ます。
逆の事象とは、エンジニアを目指して大手企業に入社し、最初は開発を担当していたが、1〜2年後には上流にしか関与せず、気づいた時にはプログラミングができなくなっているということです。
SESは「案件ガチャ」と言われていますが、Web系企業への転職も同様です。例えば、「アジャイル開発の経験ができます!」と誘われて転職したら、ただの「仕様が継続的に変更されるウォーターフォール」だったりします。
その際、転職はハードルが高いですが、SESなら(所属会社が良い会社であれば)現場移動の形で働くことも可能ですので、むしろSESの方が都合がいいかもしれません。
また、SES企業では、お客様からのオファーを獲得するために、エンジニアの資格取得試験費用や教材費、報奨金を出す企業が多いです。
一方、Web系企業では、実務経験が重視されるため、資格の取得は必須ではないですし、その点でもSES企業は技術力を身につけるのに適していると思います。
どんな職場や現場でも、その人の考え方や意欲、成長意欲次第で、技術を習得できるかどうかは変わってきます。つまり、これもSES自体の問題ではなく、それぞれの個人によるところが大きいと理解していただければと思います。
SESの給料は低く見積もられている!
「真っ赤なウソ」とは言えませんが、この件には2つの考え方があります。
1つ目の考え方は、SESにおいては、人月単価から会社の利益や社会保険料などの負担費用が引かれた給与が、実際の上限となっているため、フリーランスやWeb系のハイクラスエンジニアと比較して低く見える可能性があるという点です。
実際に、一般的には上限があることは事実なので、これは間違いではありません。ただし、Web系企業であるからといって必ずしも高収入であるわけではなく、同様にSESであるから必ずしも低収入というわけでもありません。
SESにおいても、実際には単価200~300万円のエンジニアも存在します。また、そのような単価で給与が設定される企業も最近増えてきました。
例えば、月単価が200万円であれば、それに諸々を差し引いても100万円以上の月給が実現するでしょう。そうなれば、1年で1,200万円以上の年収になりますし、賞与があればさらに1,500万円程度の年収が実現するでしょう。
ちなみに、フリーランスの年収は実質的には「年商」であり、そこから社会保険料や経費が差し引かれることになります。しかし、「フリーランスになれば年収アップ!みんなフリーランスになるべき!」といったような考えは実現不可能です(断言します)。
会社に所属していれば、社会保険料の半分は会社が負担してくれますし、福利厚生や安定した収入といった保証もあります。会社に所属することには、これらのメリットがあるため、勘違いしないように注意しましょう。
2つ目の考え方としてSESのエンジニアとWeb系のエンジニアの平均年収を比較すると、SESのエンジニアの方が低い傾向にあります。これは、両業界において未経験や経験が浅い人材の割合が異なるためです。
給与は一般的に経験やスキルに応じて決まるため、経験が浅い人材は必然的に低い給与水準となります。ただし、業界全体として給与が低いわけではありません。
ただし、数値的なデータから見ると、業界間での給与水準の差は存在するため、「安い」という見方も間違いではありません。ただし、重要なのは、この給与の差は業界自体の問題ではなく、人材の質や経験の差が影響しているということです。
まとめ
SESに対する批判や悪評は、実際のSESそのものに向けられるものではありません。多くの人がSESという言葉を勘違いしている可能性があります。SESはシステムエンジニアリングサービスの略で、ソフトウェア開発や運用、保守などを専門家が行うための労働力を供給するサービスです。
多くの批判が指すのは、SES事業者が多重下請けや偽装請負といった問題を抱えている場合や、労働時間の長さや技術習得の困難性といった点です。しかし、これらはSESそのものの問題ではなく、そのような事業者の問題です。
SESそのものに対する批判や悪評は、実際にはSES事業者の問題や個々の状況に起因しているものです。SESは適切な運営が行われている場合には、大きな価値を提供することができます。
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