【エッセイ】ピアノ(拙著『神さまの隣』より)
ピアノ
ピアノを好きになったのはいつだろう。
家には、20年以上前からピアノがあるが、当時は、特別強い思い入れがあった記憶はない。
わたしがピアノの素晴らしさを知ったのは、自発的な力というより、外からの働きかけが大きかったように思う。例えばそれは、ピアニストの演奏だったり、ピアノを題材にした小説や漫画だったりする。
ピアニストが奏でる演奏は、わたしに、ピアノが持つ音色の幅を教えてくれた。
限りなく優しい音色から、ダイナミックで力強い音色まで、多種多様な響きがあること、同じ曲目でも、演奏者によって音楽の表現が変わることは、わたしにとって新鮮な気づきだった。
また、トリルや超絶技巧を繰り広げる、ピアニストの手元を見るのも楽しかった。
そして、小説や漫画の中の、ピアノと情熱的に向き合う登場人物との出会いは、ピアノの世界の真髄を感じさせてくれた。
作品の中で表現されている、ピアノへの陶酔感や、ピアノと向き合うことへの純粋な喜びに、わたしは憧れた。時には、音楽と向き合う苦悩や葛藤も描かれ、それを乗り越えた末にもたらされる人間的成長は、まさに「昇華」という言葉がよく似合う、華々しいものだった。
彼らが音楽と接する際に感じる多幸感を、ある作品では、「生きていてよかった」という台詞で表現していたことがあって、わたしは感動して涙せずにはいられなかった。そのシーンを読者として読むことができたことが、わたしにとっての「生きていてよかった」と思える経験となった。
こうしてわたしは、自分の力だけでは、ピアノの魅力に気が付くことができなくても、誰かが表現したピアノの魅力に触れることで、ピアノを好きになった。
一度距離が縮まると、ピアノは親しみやすい存在だった。
わたしには、特に好きなピアニストがいて、時々、彼の演奏を耳にする。
柔らかな息遣いと、音楽へのアプローチの深さ。それに詩的な音色。
彼の音楽を聴いていると、純粋に彼の人柄と向き合っている気持ちになる。謙虚でひたむきな姿勢が、胸の内に響いてくる。
繊細で温かく、暴力的な要素がまったくない。「音楽は平和をもたらす」と言われることがあるが、その真意を彼を通して垣間見たような、そんな気がする。
鮮やかに鍵盤の上を行き来する、ピアニストの両手。
生きる喜びや苦しみ、痛みや幸せ。五線紙に表現された様々な感情を、彼らは再現しようとする。
照明に照らされ、ステージの上で、わたし達に届けようとする。
持てるだけの渾身の力で。
わたしは、両手にあまるそれらを受け取りながら、ただただその音色に酔いしれる。
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こちらの作品は、拙著『神さまの隣』より抜粋したものです。
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