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のいずさんと虻瀬犬さんと是さんに会った

のいずさんが声をかけてくれた。ボカロを通じて誰かと会うのは初めてのことだったから、それはそれは身を固くして臨んだ。だけど御三方とも心底優しくて、緊張はすぐに解けてしまった。
うまく話せない時も、言葉が出るまでみんなゆっくり待ってくれた。初対面でも何往復か会話すれば、胸の内の大事なものを同じくらい大事に扱おうとしてくれる人かそうでないかはなんとなくわかる。気持ちを声に乗せて渡した時、そっと受け取って、見つめて、丁寧な言葉で包んで返してくれる人たちだった。



のいずさんは気さくでニコニコしていて親しみやすさの権化だった。常に周りを見渡してすぐさま手を貸してくれる人だから、私みたいな内向かつ閉鎖的な人間にとって本当にありがたい存在。誘ってくれた時もすごく気を遣って話してくれた。のいずさんだから素直に行きたいです!って言えた。

とても忙しい人なのに、困っていると必ず気にかけてくれる。とんでもないバイタリティで、少し心配になるくらいにいつも働いている。どんなに多忙でも仕事の一つ一つを疎かにしない誠実さが、それ故に厚い人望を持っているんだろうことがまだ知り合ってから日の浅い私でもわかる。
人と人を繋いでいくのが好きなんですって話していた。いわゆるコネをつくって立場をよくしようとかそういうのでは決してなくて、自分の好きな人たちが手を繋いでもっと幸せになったらって気持ちに溢れていた。私は疑り深い面倒な性格をしているので、最初の方はのいずさんの親切さに正直戸惑った。だけどはじめて電話した時、底抜けに優しいだけだって分かった。この人に出会えてよかったなって思った。

私は社会的な能力がかなり低いので(ぱっと見だと伝わらないことが多いので余計厄介)気づかないところですでに色んな迷惑をかけてしまっている気がする。ちゃんとしなきゃって思う。面倒見の良過ぎるのいずさんがこれまで負ってきたかもしれない苦労の全てが、のいずさんの幸福な未来を育てる土壌になってはずだなんて勝手に確信している。



虻瀬犬さんは対面しているだけでエネルギーをもらえる、快晴と万雷の合いの子みたいな人だった。曲のイメージとは裏腹に明朗で、大きな身振り手振りをまじえて喋っていたかと思えば突然静止して考え込んだりと、常に賑やかで楽しかった。
まるでくつわをはませた獣に跨っているような、手綱を引く力と引かれる力が常に拮抗しているような、今にも駆け出さんと身を震わせる獣もまた虻瀬さん自身であるかのような、そんな人。

去年出会ったばかりの虻瀬さんの曲たちは、これまでと違う角度から心を揺さぶってくるものだった。種々雑多で鮮烈でカオス。なにより音楽の照度がとてつもなく高い。私の曲はせいぜい街明かりの一つに過ぎないけど、虻瀬さんのそれは星雲のような巨大な光の塊だ。彼が産み出す普遍的な力を宿した音の渦たちは、遥かな闇まで飲み込む輝きと背丈を持っている。だから国境なんて悠々と越えてしまう。
虻瀬さんのすぐ側にいたら、誰しもが何かしらの表現衝動に駆られちゃうじゃないかって思う。少なくとも私はそうに違いない。

あとこれは音楽と関係ないんだけど、一軒目のお店を出た時と帰り際の二回もハグしてくれて嬉しかった(のいずさんもしてくれた)。また会った時もハグしようね!



是さんは物腰が柔らかくて、話していると落ち着く人だった。だけどその穏やかさと同時に、身の内に強い信念や激情みたいなものを秘めているようでもあった。対照的な色を隣り合わせた鮮やかなステンドグラスのような、心の振幅と抱える葛藤の大きさが比例するような、そんな佇まいだった(こんなこと言って全くの検討外れだったら申し訳ない&恥ずかしい)。
私は葛藤している人が好きなので、本当に勝手な解釈に過ぎないのだけど、是さんがまとう両儀的な空気に触れられただけでお会いできてよかったなと思った。

是さんの書く詩には複雑な印象がある。鋭利な毒気を帯びた愛や真実を外骨格として、内包したロマンスを切実に庇っているようなイメージ。強力なメロディセンスは、ともすれば反発し弾け飛んでしまう二面的な詩を接着する役割を果たしている、気がする。そんな危うい魅力に人々は惹かれてしまうんじゃないかな。



御三方とも名実共に素晴らしいクリエイターなので、そういう意味で私は明らかに場違いだった。それなのにみんな目線を合わせて対等に話してくれた。つい熱っぽく語ってしまった創作論にも耳を傾けて、同じ熱量で返してくれた。私はこれまでずっと、同じく音楽をつくる誰かと顔を合わせて対話がしたいと切望していた。その願いを叶えてくれた。全部が嬉しくて、帰り道にちょっと泣いた。

嬉しい気持ちをたくさん貰った。だからもしまた会えたら、なにかを渡せるような自分になっていたい。




のいずさん、虻瀬犬さん、是さん、とても素敵で楽しい時間をありがとうございました。またご一緒できたらとてもとても嬉しいです。

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