自販機男。
唐突だが 今
俺の目の前に自動販売機がいる
一応言っておくが
俺が自販機に来た訳ではない
筋骨隆々な腕と足が突き出てる自販機が
目の前であぐらをかいて座り
腕を組んでいる
(...買え)
妙な圧を掛けてくる自販機
秋といってもなんかココ少し暑いし
ペットボトル500mlの麦茶が欲しいかな...
「麦茶下さい」
「オレの顔を良く見てみろ
麦茶は扱ってない」
あ...自販機の中に麦茶無かったわ
つうかアンタの顔ってそこ?
自販機の顔の中の商品を
よくよく見たら
250mlの細長いスチール缶ばっかり
さらに...
「瓶」
コーラと炭酸ジュースの瓶が入ってる
相当のベテランだこの自販機
なんか無性に瓶のコーラが飲みたくなってきた
「250mlの瓶コーラ下さい」
「口で頼むんじゃない ボタンを押せ
自販機への礼儀だ」
なんかイラっとしながら小銭を入れて
瓶コーラのボタンを押す
久しぶりに見た瓶のコーラ
少し興奮してる自分がいる
物珍しさもあるが
缶やペットボトルより
瓶の方が間違いなく美味しい...
駄菓子菓子
俺は肝心な事を忘れていた
コーラの瓶のフタは「王冠」
栓抜きがないと開けられない
栓抜きなんてそう都合よく手元にない
あたふたしている俺の姿を見かねたのか
自販機が本体のある部分を指差す
「ここで栓を抜くんだ
若いヤツは忘れたか知らないだろうけどな」
自販機に栓抜きなんてあったのか...
と驚きつつ
自販機にレクチャーしてもらいながら
なんとか栓を引っこ抜いた
やっぱり 瓶で飲むコーラは美味い
美味そうに飲む俺の顔を見て満足したのか
自販機はゆっくりと立ち上がり
「オレにとって、アンタが最後の客だ
いい顔見れて満足したぜ
ありがとうよ」
そう言い残して 遠い何処かへと
歩いて去っていった
その背中はどこか淋しげに見えた...
・
・
・
気が付いたら 寝室のベットにいた
夢だったのか... それにしても
奇妙な夢を見たせいか喉が乾いた
確か冷蔵庫に買い置きしていた
ペットボトルのコーラがあったはずだ
コーラを取りに行こうと
一階のリビングに降りたら
あるニュースの速報がテレビに写っていた
軽トラックの事故現場
何かが潰れている
夢の中に出てきた
「あの」古い自販機...
何故かはわからない でも
あの自販機男は
俺を最後の客に選んだんだろうか
その不思議な夢を
ソファーに座っている姉に教える
「あの古い自販機
俺の夢の中に出て来てさ
ちょっと怖いよね」
...
...姉の様子がおかしい
テレビを見ている
姉が震えている そして
俺の声が届いていない気がする
姉の肩を叩こうとしたら
俺の手は姉の肩をすり抜けてしまう
触れる事が出来ない
何がどうなっているのか訳が分からず
ふと
もう一度ニュースの映像に目を向ける
テロップに
こう書かれていた
「軽トラックと自動販売機に挾まれ
男性一名が心肺停止」
※この創作はフィクションです
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