【蓮ノ空ラブライブ!大会】 花咲く君にエールを
1月20日 一人の女の子の配信が始まった。
彼女の名前は日野下花帆ちゃん。
蓮ノ空女学院に通うスクールアイドルだ。
ラブライブ決勝大会に進出が決まった今、どんな配信をするのだろう。
ふむ、何やら今回はお願いがあるらしい。
確か 前は、雑談をすると言っていたような。
そんな事を考えながら、少し冷めたコーヒーを飲み干し、イヤホンをつけて耳を傾ける。
何やら昔話をしている。
ちょっと病弱な女の子のお話だ。
おとぎ話のように例えているが
どう考えても花帆ちゃんのことだと思う。
時々 にこりと微笑みながら配信のコメントを読んでいく姿が自分は好きだ。
日曜日、おやすみの朝、カーテンの隙間から入り込んでくるあたたかい日差しのような、柔らかい笑顔。
自分はこれが、花帆ちゃんのチャームポイントだと思っている。
話を聞いていくと
その昔ばなしの女の子の夢は「花咲きたい」というらしい。たどたどしくも、気持ちを込めて話す花帆ちゃん。
「花咲きたい」
夢を叶えたいだけでなく
自分らしく生きたい、自分のことを好きになりたい。と花帆ちゃんは言う。
社会に出てから、すっかりくたびれた自分にはとても眩しく見えてくる。それと同時にこの眩しさが自分は好きなんだとも。
蓮ノ空に入り、スクールアイドルになってから花帆ちゃんは「花咲く」というのは自分のことだけではないと気付いたらしい。
自分が学生の頃はこんな立派じゃなかったよなんて、はははと笑いながら続きを聞く。
ぐっと、呼吸をためてから、「あのね、皆」と切り出した。
ここからが花帆ちゃんのお願いだろう。
スマホのボリュームをもう一つ大きくする。
セラス、柳田……凄い名前の女の子だな。
ハーフなのかな。瑞河の生徒なのか。
花帆ちゃんのお友達なんだ。
なるほど。瑞河のスクールアイドルとして
ラブライブに出たい。がセラスさんは、中学生であり、瑞河は廃校が決定……それは……あまりにも……花帆ちゃんが話を続ける。
そうか……。
そうだな。セラスさんを出場させたいという気持ちはわかる。 ただ、それは勝手なわがままだろう。花帆ちゃんもそうだとわかっているらしいが。しかし……
子供の頃は泣き叫べば、お菓子を買ってもらえた。
どんなわがままだって許してもらえたことのほうが多かった気がする。
ただ、大人になってからはそんなことはない。
何なら正しいことをしたはずなのに怒られることだってある。
世の中にはルールがあり、皆それに沿って毎日を暮らしている。自分もそのうちの一人だ。
ラブライブだってきっとそうだろう。
だから、これはきっと無理な話だと、正直思う。
ただ、それと同時に
自分の知ってるスクールアイドルは、
花帆ちゃん達は
そんな無理を、現実をどうにかしてくれる力があるとも思う自分もいる。
いや、正しいけど少し違うか。
どんなに凄いスクールアイドル達だとしても
実際に何かを解決してくれるわけではない。
例えばだが、花帆ちゃんが自分の隣に来て
目の前の問題を解決してくれるわけではない。
彼女達がステージで放つ、歌、踊り、表情、その情熱を受けて何かを動かしていくのだ。
そういう人達を自分は見てきたし、何より自分も身を持って知っているつもりだ。
花帆ちゃんが改めてお願いする。
「ラブライブに憧れた女の子をラブライブのステージにあげるために、どうか力を貸して!」
頭の中が揺れている。少し、考える。
配信のページを閉じると、すぐに花帆ちゃん達からのメッセージが届いた。
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配信でお願いしていたメッセージとほぼ同文だ。
社会に出てる自分から見ればこれは署名文として
成り立つかと言われるとかなり怪しい。
誰か、彼女の側に指摘してあげれる人はいなかっただろうかと野暮な考えがよぎる。
「さて……」
さっきも考えたが、やはり無理が多すぎる。
せめて予選前からだったら……
そこに出れなかった人達は?
どうみても公平、健全とは遠いような……
あれこれ悩んでいると
ふと、コルクボードに飾られた花帆ちゃんの写真が目に入った。
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やっぱり良い笑顔だな。
多分自分が花帆ちゃんを好きになったのって
この笑顔が好きだったからなんだろう。なんて思い出す。
そうだ、と思い、
スマホのアルバム画面をスクロールする。
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そこにはいくつもの花帆ちゃんの笑顔があった。
自分はこの笑顔が好きだ。
ルールだとかそういうのじゃない。
この花帆ちゃんの笑顔が見たくて、
花帆ちゃんが好きだから応援してるんだ。
さっきの署名覧にもう一度目を通す。
気持ちを込める。
きっとこの問題は簡単じゃない。
ただ、どうせだったら、自分は、
スクールアイドルを信じる花帆ちゃんを信じたい。
だから、もしもこの後、彼女が泥に塗れることになるのならば自分も一緒に塗れよう。
そんな事を思い、メッセージを書いた。
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と、ここまで書いていたら、
先ほどの配信でセラスさんが特例として
プレーオフに立つことが認められたと花帆ちゃんたちから伝えられた。
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これを奇跡と呼ぶのかはわからない。
今でも周りでは賛成と反対の意見であふれている。
ただ、自分は彼女が笑顔でいてくれて良かったと思うのだ。
1月26日。もうすぐ、その日が訪れる。
笑っても泣いてもこれが最後。
どうか、皆の夢が叶って欲しいと願う、花帆ちゃんの夢が叶うように自分は今日も彼女達にエールを送るのです。
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