タイムカプセル【12/2】
そこに埋めておいたから、誰かいつか掘り出してくれ。そう書き記して俺はこの地を去った。クソみたいに寒い場所だった。領域の名前は氷獄。まるで冷蔵庫のようだ。だからそう、この品物も、腐ることはないだろう
俺は寒いのが苦手だ。今度はもっと南の島へ行きたい。全てを忘れて……そう、傭兵なんて、もうこりごりだ。怖いし、危ないし、煩いし、汚い
傭兵をやめよう。そう決心したのはつい一週間前だ。俺は氷獄で未識別機動体と戦い、敵の砲撃から逃げ回っていた。もう限界だ。おれは、戦うために生まれたわけじゃない
だから俺は、この氷の下に自分のグレムリンを埋めた。よかったんだ。これで。売れば金にはなるだろうが、それは俺が許さなかった
もう俺は、戦いたくない。でも、売ってしまえば、全ては消える金で終わる。でも俺は、戦いそのものを消したくはなかった。いままで戦った全てが、金で終わるなんて、そんなのはごめんだ
俺には夢があった。それは決して、金持ちになる夢なんかじゃない。俺は、世界を守りたかった。誰かを救いたかった。だから、グレムリンテイマーになった。結果はどうだ? 俺はどこまでも臆病なだけだった
だから、眠れ。俺の夢。この氷の下で。何年でも、何百年でも。その間、俺は果たせなかった夢を抱いて、少しは楽になれるだろうよ。じゃあな、バイバイ。そういって俺は……
俺は――
去ったはずだったろうが! 俺は、どうしていま、一週間かけて埋めた氷を掘っているんだ? 理由は簡単だ。襲われている氷獄の基地を見かけただけだ。自然と身体が動く。
あの基地には、少し笑顔の可愛いオペレーターがいたはずだ。そんな小さい動機で、俺の決心は、そう簡単に……
揺らいじまうんだろうな
結局、俺は臆病だった。戦いから逃げることさえも、怖くてできないんだ
だから俺は戦うんだろうな
操縦棺のハッチまで掘った。ここまでくれば、あとは起動できる。ハッチを開け、モニターを見る。すでに電源は入っていた
「おかえりなさい」
無機質なシステムメッセージに、俺は苦笑して、この短い間のタイムカプセルを起動させる
「帰ってくるさ。何度でもな」
俺は、臆病なんだからな
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