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約束【12/3】

クリスマスが近づくにつれ、僕はある約束を思い出さずにはいられない。そう、僕はサンタさんに、大切なプレゼントを願っていた。ごく普通の、少年の夢だ

サンタさんは、僕に、プレゼントを届けると約束した。だから僕は待っている。そう、16年が過ぎた今もなお……

僕は大人になった。サンタはもう信じていない。それは、遠い異世界の風習で、この世界には最後まで馴染まないかもしれない。それでも、皆12月になると狂ったようにクリスマスを祝い続ける

僕はグレムリンテイマーとなり、こうして、未識別機動体との戦いに身を投じている。なぜって聞かれたら……きっかけは偶然だったけど、僕の適性がここにあると分かったからだ。それ以外の何物でもない

たまたま乗ったグレムリン適性試験機のスコアが高かったとか、ダスト・グレムリン適性者選別試験に選ばれたとか……落ちたけど。そういう要素が積み重なって、僕はグレムリンに居心地の良さを感じていた

サンタさんがグレムリンテイマーだったのもある。いつも遠くの戦場を飛び回っていて、帰ってくるのはクリスマスか、誕生日か、あとは数日か、くらいだった

僕はそれを恨んではいない。むしろ、今になってだいぶサンタさんの気持ちが分かるようになってきた。自分を信じてくれるグレムリンと人機一体となってかける感覚が、心地よい

サンタさんは……父は、16年前、グレムリン大隊の一員となり、世界を相手に戦い……重粒子粉塵殲滅砲を受けて、消滅した。約束を果たせぬまま

でも、僕は恨んではいないんだ。サンタさんはきっと、この空のどこかにいて、クリスマスにやってくるんじゃないかって。そうして16回も待っている

計器がビープ音を発する。素早く回避行動を取る。後ろを取られていた……いつの間に?

零力……あらゆる物質に流れる力。計器がめちゃくちゃに狂い、赤い靄以外何も分からないこの粉塵まみれの世界でも、零力の投射と計測だけは確実だ。高い零力は低い零力の存在を容易に捉える。逆はそうはいかない

そしてグレムリンは高い零力を持ち、この粉塵に遮られた世界で無類の力を発揮する。はずだ。そのグレムリンを越える零力の存在が、後ろに?

索敵を繰り返し、零力の増大と投射を行う。ともかく、敵の姿を捉えるほかない。敵の姿はまだ見えない。焦りが生まれる。すさまじい零力の機体が近くに存在している。それは未識別機動体に他ならない。このような存在は他にはいない

まだか。まだ見つからない。敵はすぐ近くにいるはずなのに。しかし、チャンスはある。敵が攻撃をすればいいのだ。敵の攻撃を捉え、その方向に反撃する。それしか道はないかもしれない。反撃用の兵装もある。ただ、敵の動きが掴めない。もし、敵の火力が一撃でこちらを撃墜せしめるものだったら? そのときは……

そのとき、通信が入る。誰からの? 分からない。このメールを見る余裕は今の戦場にはない。無いが……僕は、そのメールを開かずにはいられなかった

なぜそうしたか分からない。でも、今しか開くチャンスはない。そうグレムリンも言っている。僕のテイマーとしての適性がそう告げていいる

メールを開く

”メリークリスマス!”

次の瞬間、回避行動を取る! 自分のいたすぐそばを、電子兵器のすさまじい軌跡が駆け抜ける!

「そこだぁ!!」

俺は両腕に装備したサイコブレードを展開し、攻撃によって生まれた零力を追跡する。すさまじいGを受けながら急加速する機体

俺は、最後に……モニターの識別サインを見た

見知った識別番号

16年間忘れずにいた番号

サンタクロースの影を切り裂き、俺は、そのまま戦場を離脱した

メールボックスを見る。そこには何もなかった。ただ、サイコブレードの残弾が減っていて、それがゆっくり充填されていくのも分かった

夢だったのだろうか

僕はそうは思わない。彼が僕と同じなら……ただ、戻ってきたくなっただけなのだ。自分が消滅したことにも気づかずに、年に数回帰るように

ただ今回はそれに16年かかった……だけなのかもしれない

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