ウサギが跳ぶは月面の影【錆戦】
ウサザキがタワーへと向かう、その数日前
ジャンク財団崩壊のさなか
ここは東北東海域、静かの海
ぽつぽつと点在する島嶼の一つ
そこにウサザキはいた
「なるほどね……指揮系統に、大きく謎あり」
ジャンク財団秘密基地に忍び込んだ兎
ルートは工夫が必要だった
海中潜航型リコンキャットに掴まり侵入
偽造パスと入手したコードで扉を開く
ここでジャンク財団の情報を入手する……そのはずだった
しかし、妙なことに、情報が混乱し、錯綜している
「何かが起こった……ってわけ」
ウサザキは探している情報がある
それはジャンク財団が抱える膨大なデータ
そこにアクセスし……
「バイオ兵器開発……人工生命……新生体」
「あるはずだ。必ず……」
「誰です!?」
振り向く。ウサザキは後悔をする
情報に気を取られていたのだ
拳銃を構えた事務員らしき女……
ジャンク財団関係者であろう
「迷い込んだ、兎ですよ」
「……知ってますよ、その顔」
「へぇ」
「ジャンク狩りの、ウサザキ……!」
「だったら、どうするの?」
「……ッ! 始末します!」
銃声。なかなか、腕が立つようだ
ウサザキの眉間に弾痕が開き
後頭部がはじける
「……ひぃっ」
青ざめるジャンクの女
再び照準を取ろうとして……
その腕を、掴まれる
「……ひとつ、忠告すると」
「誰もが『人間』だと思わないこと」
ニヤリと笑う『ウサザキ』
口を開けると、喉の奥から肉の触手が現れ、
ジャンクの女の口をふさぐ
そのまま気絶するジャンクの女
「キスだけで失神しちゃった?」
ヒヒヒ、と笑うウサザキ
新生体……バイオ技術で作られた仮初の肉体
ウサザキの肉体も、それだった
特に、戦闘用に調整されたそれは
驚異的な再生能力と強靭さ
そして、神経の分散配置を特徴としている
――
「それで、見つかったのかよ」
「何が?」
「お前が人間に戻る方法、だよ。ウサザキ」
情報屋が背中越しに話しかける
ウサザキはバイオモンスターに餌をやりながら
自嘲気味に話す
「ないってさ」
「そうか」
それ以上は聞かない。ウサザキも話さない
バイオモンスターはのんきに培養餌を食べている
そういうこともある
全てに答えが用意されている
そんな話はなく
ただ、事実だけが横たわる
そういう世界なのだ、この虚空領域は
「そういえば、倒したジャンクの女はどうしたんだよ」
「可愛かったから持ち帰っちゃった」
「怖い女だぜ、お前は……」
情報屋はバイオモンスターを一瞥して、その場を立ち去る
バイオモンスターは、どこか女性のフォルムを残していた
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