徐行状態のバランス
徐行でバランスを崩す人と崩さない人の違い
時速10km以下の低速走行でフラフラっとしてしまい立ちごけというパターンをよく聞きます。
そもそもバイクがどうして倒れるのかといえば自立しない乗り物だからですね。
「じゃあどうして倒れず真っ直ぐ走れるのか」
倒れ始めると倒れた側にハンドルが切れ重心位置が習性されるからです。
もう一つは、コマが強く回っている間は倒れないのと同じジャイロ効果
しかし時速10km以下など低速走行になるとそれらの働きが弱くなるのでフラフラします。
教習所の一本橋などで
「徐行でバランスを崩す人と崩さない人は何が違うのか」
という事を人間工学の視点から数値化し検証した
『低速走行におけるライダーの挙動』
(著者:横井元治、青木和夫、堀内邦雄)
という面白い研究論文をザックリ要約して見ました。
実験に使われたのはいま話した一本橋。
車両も多くの教習生を(主にクラッチ操作で)泣かせたであろう教習車としてお馴染みCB750教習車仕様に各種センサーを付けたもの。
これを使って一本橋の成績を参考に初心者グループと熟練者グループに分けて比較したところ大きく異なっている要素が2つほどあった。
初心者と熟練者の違い1
『転舵角の差』
転舵角というのは早い話がハンドルをどれだけ切って走ったかという事で、初心者に対し熟練者はハンドルを積極的に動かし大きく切りながら走行している事が検証で分かった。
「ハンドルをインに入れるとバイクが起きる」
という話は初心者の人も聞いたことがあると思いますが、これは進む方向(前輪の向き)に対してハンドル以降のライダーや車体は真っ直ぐだから。
だから車体がアウト側に行って起きるという話で熟練者はこれを積極的に活用していたという事。
もちろんこれは蛇行する事でタイムや距離を稼ぐ狙いもあるわけですが、それだけではなく
『前後輪を直線上に並ばせない様にしている』
という狙いもある。
前後輪を直線上に並ばせないようにすると基底面といってバランスを取れる有効面積が広がるんですね。
両足の間隔を広げた方がバランスを取りやすいのと一緒。
熟練者はこれらを利用するためにハンドルを大きく振りまわしながら走っており、反対に初心者は利用していなかったという話。
初心者と熟練者の違い2
『ハンドル荷重の差』
車体が傾く時にハンドルに荷重を掛けるのは初心者も熟練者も同じだったんですが面白いことに
「荷重を掛ける方向が真逆」
という結果だった。
熟練者は車体が倒れていくイン側とは逆方向の荷重を掛けていた。これは1つ目で紹介したようにハンドルを切って起こそう(踏ん張ろう)とするから。
一方で初心者はそういう動作をしていないにも関わらず別の動作によって”倒れていく方向へ”荷重を掛けていた。
初心者がいったい何の動作によってハンドル荷重をかけていたのかというと
『頭部の動き』
です。
初心者は車体が傾くと頭部も合わせて傾け、倒れようとする車体を更に押すように荷重を掛けていたんです。
この原因は熟練者が上半身をハンドルでも支えていたのに対し、初心者はニーグリップだけで支えていたから。
「初心者の方が正しいポジションでは」
と思えるんですが、頭というのは重心から大きく離れた場所にある重量物なので支えるのは非常に大変。だから熟練者はハンドルも使って全身で支えていた。
しかし初心者は下半身(ニーグリップ)だけなので車体が傾き始めると頭を支えきれず車体につられるように傾けていた。
それが結果として倒れようとする車体の運動を加速させてしまいバランスを取るのを難しくしていたという話。