ダイヤモンドプリンセス号でのCOVID19の蔓延と船内検疫の効果
ダイヤモンドプリンセス号とその検疫体制についてよくわかる文献を読みました。
現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例
厚生労働省、DMATなど関係者の皆さんはベストを尽くされています。
「COVID19が船内で培養」は検疫開始前はまさにその状態でしたが、開始後はほぼ完全にコントロールされています。あの努力がなければ船内の全員が感染するか、あるいは下船して発症し日本中に急速な蔓延が生じたと思います。
検疫中の「COVID19が船内で培養」は明かな事実誤認です。
それでも、感染者は621名(2月19日)。
ある環境下ではわずか14日でこのような蔓延が起こりえるということで怖ろしいのは確かです。
①出港から横浜帰港まで
まず、第一発症者とダイヤモンドプリンセス号の行程です。第一感染者(この言い方が正しいかどうか知りません)は船内に5日しかいませんが、19日から咳があったといい、乗船時すでに発症していたと思われます。この方は香港で下船しており船内にはわずか5日しかいませんでした。
1月30日に発熱し、2月1日には新型コロナウイルス感染が確認されました。
そして、ダイヤモンドプリンセス号は2月3日に横浜に帰港しました。さあまったなしの一大事です。
このときかりに日程が10日で全員下船していたという可能性を考えると鳥肌がたちます。
②COVIT19の潜伏期間と感染性の高い期間から感染の伝播を推測する
(この部分は私独自の推論です。間違っていたとしても国立感染研究所にはまったく落ち度はありません)
まず、現在厚生労働省で対策にあたられている高山義浩先生(沖縄県立中部病院 感染症内科)は「潜伏期間 1〜11日(だいたい5日)感染力が強いのは発症して3〜4日目くらいと考えられている」という推定をされています。
第一感染者から二次感染が生じる期間は5日ありましたが、そこから発症するまでには1〜11日、おおむね5日かかります。発症して3〜4日目が一番感染力が強いと考えられています。
これらより感染してから潜伏期が5日の場合と1日の場合で14日で何サイクルの感染が起こるか考えてみます。
5日であればおそらく三次感染までですが、1日であれば4〜5次!感染まで起こりえます。いわゆる基本再生産数が低ければよいのですが、これまでの患者数の増加を考えるとダイヤモンドプリンセス号内部では、はるかに大きな価であったと思います
おそらく「1人から10人に感染する」とかのレベルです。
③ 検疫体制
検疫体制の概略です。2月1日に情報が入って、2月3日までに方針を立てて実行しなくてはならなかった訳ですから、最初はまさに「とりあえずの対応」でもやむを得なかったと思います。
外国人が多い、船籍は英国であるなどから方針の徹底はなかなかに困難であったようです。
初期はPCRのキットが不足して有症状者とその濃厚接触者にしか検査は行われていません。全員に検査ができるようになったのは2月11日からです。
(濃厚接触)
ちなみに濃厚接触とは「感染者と一緒にいた場合に高い確率で伝播がおこるような接触」だと思います。基本的には「閉鎖空間に複数の人が長時間いる」場合です。
いまのところ具体的に伝播が生じたところは
①屋形船(おそらく2−3時間)
②観光バス(5−6時間)
③タクシー(数十分から数時間)
時間が長ければ長いほど、空間が狭ければ狭いほど、人の密度が高ければ高いほど伝播は生じやすくなります。
ここから類推すると
・長距離列車、飛行機、ラッシュ時の通勤電車やバス
・病院の待合室
・宴会
・長時間の会議
・居酒屋、レストランなど
・大勢の参加する集会、コンサート
なども同様に危険であることが推測されます。これら全てを生活から排除することは困難だし適切とも言えないと思いますが。
しかし、特に病院は感染者が集まりやすいところであり注意を要します。
④検疫の効果
「検疫の開始後もダイヤモンドプリンセス号はCOVID19の製造機」という仮説が正しければば感染者数は検疫開始後も指数関数的に増大していなければなりませんがそうではありません。
検疫の開始後3−4日後には発症者はかなり減少しています。
2月7日は30人ですからかなり危ない状態でした。これによく適切に対処できた者だと驚かされます。
これは発症日がはっきりしている患者さんのみのデータであることに注意してください。無症状者を含めて、発症時期がよくわからない人は入っていません。
検疫開始前後の発熱患者数のグラフです。開始前は急速に増加していることがわかります。検疫が開始されると患者数は減っています。
爆発的な全乗客およびクルーへの感染拡大は、厚生労働省、DMATを初めとした方々の献身的な努力でかろうじて阻止されたのです。
そこで、この報告書は極めて控えめに次のように結論しています。
「発症日の判明している確定例の検討に基づいて評価すると、2月5日にクルーズ船で検疫が開始される前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていたことが分かる(下記船内の常設診療所に発熱で受診した患者数参照)。確定患者数が減少傾向にあることは、検疫による介入が乗客間の伝播を減らすのに有効であったことを示唆している。乗客の大半が検疫期間を終える2月19日に近づくにつれ、感染伝播は乗員あるいは客室内で発生している傾向にある。特記されるべき点は、クルーズ船の性質上、全ての乗員乗客を個別に隔離することは不可能であったことである。客室数には限りがあり、乗員はクルーズ船の機能やサービスを維持するため任務を継続する必要があったからである。」
時間もリソースも限られた状態、しかも完璧な感染対策を行いにくい船内の環境を克服した皆様の努力には頭が下がります。
検疫の目的は「感染拡大の阻止」であり、その目的はほぼ達せられました。検疫の目的は「ゾーニング」ではないのです。もちろん完全であるに越したことはありませんが、あんな状況でぞれができなかったと言って誰も責められません。
それより、次は日本のどこかでダイヤモンドプリンセス号のような事態が生じないようにすることにすでにミッションは進んでいます。