『やはり、君は…』
お母様は、私が小さな頃に村の勇者に殺された。
怖がって泣く私を深き森の奥に残して。
お母様の最後の言葉は…。
「此処にいなさい。」
お母様は、帰って来なかった。
それから、僕は…私は…待っていた。
お母様を殺した者を。
深き森の奥で。
そして、その日が来たのだ。
村に放った魔物を倒し、此処まできたか。
「やはり、君が…。」
勇者を名乗るその男は、幼かった時の友人。
「本当に魔王の子だったのか…。あの頃の泣き虫で弱虫だった君が…今は、村を恐怖に陥れている魔王だってのか…。」
男は、落胆にも似た表情を浮かべ…目には哀しみが滲み出ていた。
「だとしたら?」
私は、心の軋みを隠して、無表情を装い男に問う。
男は、哀しみを宿した瞳をこちらに向けて決意にも似た声音で言った。
「君を…。お前を…。お前を討って、村を救う!」
男の瞳は決意の色に変わる。
ああ、やはり、君は…。
あの日、お母様を討った勇者の子供…。
「よかろう、全力で来るがいい。」
心の軋みを隠して、私は、男と向き合う。
迷っている…こんな私は…。
勇者を名乗る男の神の剣が降り下ろされる。
全身全霊で向かってきた男の剣を迷いを捨てきれない私は、避けることもしなかった。
君を…討つことなど、心が望んではくれなかった。
一人ぼっちで森で遊んでいた僕を見つけて、何も聞かずに友達だと言ってくれた君を…。
私の体から血が滴る。
男に撓垂れる。
男は、私の体を支え耳もとで囁く…。
「どうして…。」
私は、血が滲む口もとを綻ばせ、最後の力を振り絞り言った。
「ずっと…君に…殺されたかったのかも…しれ…ない。友達だったはずの…君に…。済まなかった…村を襲って…。」
これが、僕の最期…。
体が溶けていき、意識が無くなるその瞬間まで…君の嗚咽が聞こえてた…。