(和風?手紙風朗読)「拝啓、妻君殿」
拝啓(はいけい)、妻君殿(さいくんどの)。
我ながら堅苦しい始まりだとは思う。だが、性分(しょうぶん)だ。許せ。
お前に文(ふみ)を書くのは初めてだったな。
何を書こうかと少々迷ってしまったが。
お前には口数が少ない故(ゆえ)に苦労をかけているやもしれぬと思い、伝えきれていないだろう事を書いてみようと思う。
お前と出逢わなければ、俺は俺の信ずるものを信ずることも出来ずに死に急いでいただろう。
お前のお陰で俺は自分の信ずる道を歩けた。
お前のその真っ直ぐな心と眼差しは俺の力となった。
感謝している。
戦も終わり、武士の世は消えた。
新時代が本当の幕を開けた。
温情により俺は殺されてもおかしくないところを今、こうやってお前と共に生きている。
俺はお前に変わらぬものをこそ信じる。と言った事があったな。
今は変わりゆくものを受け入れることは悪い事ではないと思えるようになった。
これもまた、お前の存在があったからだろう。
移り行く世の中にあってお前だけは変わらずにあの頃の眼差しと真っ直ぐな心を今も尚(なお)持ち続けていてくれる。
俺の事をしっかりと見、しっかりと支えてくれる。
俺の生きる意味はいつしかお前になっていた。
お前のために長く生きて、お前に幸せを感じさせてやりたい。
俺はお前に幸せを感じさせてやれているだろうか…いや、お前から不満を聞かないということは感じさせてやれているのだと自惚(うぬぼ)れてもいいのだろう。
こんな口数の少ない俺だが…これからもお前と共に生きていけたらと思う。
死が二人を別つその時まで。
これからも宜しく頼む。