こんなん書いてましてん(薄桜鬼短篇)『変わりゆくもの変わらざるもの』(斎藤 千鶴)
移り行く世の中において変わるもの変わらざるものがあると俺はお前に教えてもらった。
「一さん。」
にこにこと笑いながらお前は俺の名を呼ぶ。
「なんだ?」
「あのですねぇ、目つぶっててもらえますか?」
「何故だ?」
「いいから、お願いします。」
俺はしかたなく目をつぶる。
「絶対、開けないでくださいよ。」
「わかったから早くしてくれ。俺はこいうのは苦手なのは知っているだろう。」
「わかりました。一さん、そのまま手の平を上にして前にだしてください。」
俺は言われるがままに両手を手の平を上にしてさしだす。
その手の平に何やらお前はのせた。
「目開けて下さい、一さん。」
俺は促されるまま目を開けて手の平の上のものを見た。
「これは・・桜の花弁・・か。」
手の平の中には栞紙に桜の花弁が貼られたものがのっていた。
「はいっ。押し花にしてとって置いたんです。一さんにあげたくて。」
「これを俺にか。」
「お気に召しませんでした?一さんたまにご本読んでらしてるでしょ。だから栞にしてみたんです。」
「あ・・ありがとう、千鶴。」
俺はその栞を袂に入れて千鶴を抱きしめていた。
小さな心使いをお前はいつも俺にくれる。
今も昔も変わることなく。
世の中は変わり行くのにお前が変わらずにいてくれることが俺にとってどれほど安らぎになっているかしれない。
「一さん?」
「ありがとう、千鶴。変わらずにいてくれて。」
「えっ?」
「お前が変わらずにいてくれるから俺は安らげる。これからも変わらずにいてくれると嬉しいと思う。」
お前は小さく頷いて言う。
「私はかわりませんよ。一さんがそれを望んでくれるなら。」
俺はお前の言葉に微笑む。
移り行く世の中に翻弄されることなく変わらないでいてくれるというお前を俺は愛しく思う。
END