『風鈴』
幸人さん。貴方は何処に居ますか?
貴方が居ない日々は寂しいです。
私達の娘も嫁いで孫娘もできました。
それでも私は寂しいのです。
貴方は何処に居ますか?
(チリリンッ)風鈴の音。
「幸人さん…」
庭の桜木の下、貴方が居ました。
「幸人さん…っ…」貴方に抱きつく。
「全く、君は。相変わらず泣き虫だね。」
「やっと逢いに来てくれたのに意地悪です…っ…。」
「迎えに来たよ。一緒に逝こう。」
「貴方より歳をとりました。並んでは…。」
「何言ってるの?君は、昔のままだよ。ほらっ、見てごらん?」
自分の手を見る。
皺もなく、艶やかなあの頃の手。
顔に触れる。
艶やかな肌。
貴方はにこりと頬笑み。
「君はあの頃のままだよ。僕の好きな艶やかな黒髪。さぁ、逝こう。」
「はい…。幸人さん。」
「千早…。」
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「お婆様?お婆様、何処?お婆さ…お婆様!」
祖母は桜木の幹にもたれて座り、幸せそうな頬笑みをたたえ眠るように亡くなっていた。
(チリリンッ…チリリンッ…)風鈴の音。
ああ、お爺様が迎えにいらしたのですね。
お婆様……。
(チリリンッ…チリリンッ…)
どうか、お二人で幸せに…。