某ゲームの妄想恥文

虹(薄桜鬼短編   沖田  千鶴)

通り雨が降る中屯所の庭を縁側から静かに雨の雫が落ちるのを沖田総司は眺めていた。

その瞳はどこか悲しく見える。

千鶴はそう思いながらも恐る恐る声をかける。

「あ、あの、沖田さん。」

千鶴が近くに来ているのがわかっていたらしく驚くこともなく振り返る。


「千鶴ちゃんか。君もここに座って雨でも一緒に眺める?」


沖田の言葉に促されるように千鶴は隣に座る。


「どうしたの?君が自分から僕に声をかけるなんてめずらしいね。」


「そ、そんな事ないと思います。」


「そうかなぁ。結構、千鶴ちゃん僕の事避けてるような気がしてたんだけど、僕の気のせいか。」


「だと、思います。・・・そうじゃなくて、こんな雨が降ってる時にお部屋から抜け出すと土方さんにおこられちゃいませんか?」


千鶴が言うと沖田はふふふっと笑いながら言う。


「ねぇ、千鶴ちゃん。君は僕の病気の事知ってるでしょ。それにね、あの人は過保護すぎるところがあるから。別にこのくらい外を眺めるくらいで体調を悪くなんてしないよ。寝てばかりいるほうが体がおかしくなっちゃうよ。」

「でも・・お体に触るといけないですから、あまり長い時間はよくないと思います。」


「・・・うん・・そうだね・・・。でも、もうすぐこの雨はやむから。」

沖田はそう言うとまた雨の雫を眺める。


沖田の病気は死病と言われている労咳・・・。


良くなる事はない。


でも、彼は新選組を離れて療養する事を拒んだ。


”「生きることが長くても短くても僕のするべきことは同じなんだ。だったらここで近藤さんの役に立ちたいんだ。」”


沖田はそう言ってのけた。

彼の生きる意味はそこにしかないのだろう。


「ね、ほら、千鶴ちゃん、もうやんじゃうよ。」


千鶴がぼ~っとそんな事を考えていると沖田が嬉しそうに言う。


「あ、本当だ。」


「ねぇ、千鶴ちゃん。前にも言ったけど、僕は近藤さんの役に立ちたいんだ。だから、誰が何を言おうと僕はここにいる。誰にも言わないでね。」


「わかってます・・・。」


千鶴が俯くと沖田は空に目を向ける。

「あ、ねぇ、千鶴ちゃん。あれ、見て。」


沖田の言葉に促されるように空を見上げて千鶴は。


「わぁぁ、沖田さん虹ですね。」


「うん。綺麗だね。」



「沖田さんはこれが見れると思って空を眺めてたんですか?」



「うん。一人でみるつもりだったけど、君が来たし、君にも見せてあげれてよかった。」



沖田はそういうといたずらっぽい笑顔を千鶴に向ける。


虹を二人で暫く眺めていた。


「さぁて、そろそろ部屋にもどろっかな。千鶴ちゃんはどうする?」


「私も部屋にもどります。」


「そっか。じゃぁ、途中まで一緒に帰ろうか。」


「はい。」


二人で並んで歩き始める。

千鶴はふと足を止めて振り返り空を見上げるさっきまで色鮮やかだった虹が薄らいでいた。

千鶴にはその儚い虹が不安をかき立てる。


沖田は消え行く虹をみたくなかったのかもしれない。


「千鶴ちゃん、何してるの?行くよ。」


沖田の声にびくっとしながら我に返りまた歩きだす。

「千鶴ちゃん、僕はね、あの虹みたいに儚く色あせていくとしてもかまわないんだ。あの人の為にこの剣を振るえるなら、ね。」


沖田は寂しそうに笑う。


千鶴は何も言えなくて黙り込むしかなかった。

「だから、千鶴ちゃん、あの事、誰かにしゃべったら、殺しちゃうからね。」

「沖田さんは、また、そればっかり・・・。」

「そうだね・・・。ああ、部屋についたね。千鶴ちゃん、また、ね。」

そう言うと沖田はさっさと自分の部屋に入ってしまった。

千鶴は廊下を歩き始める。

自分の部屋まで辿りついて部屋にはいる前にもう一度空を見上げた。


でも、そこにはもう虹はなかった。


儚く消えてなくなる虹。


切なくて胸が苦しくなる千鶴だった・・・。

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