こんなん書いてましてん(薄桜鬼短篇 )『薄紅の花』(土方 千鶴)

今日は天気も良くて気持ちが良い日だったので土方さんが散歩に連れ出してくれた。


蝦夷に二人きりで住むようになり早一年。時々、こうやって二人で出かける事が増えた。
そして、いつもの桜の木の下に辿り着く。
「千鶴、寒くねぇか?」

不意に優しい声が尋ねてくる。


「はい。大丈夫ですよ。土方さんは大丈夫ですか?」

私の言葉に彼はムッとした表情になり言う。


「千鶴、お前はいい加減馴れないのか。」


「えっ…。」


彼が何故怒るのかを自分のさっきの言動とてらしあわせる。


「あっ…すみません。とっ歳三さん。」


そうだ、私は彼と夫婦になったのだ。


顔を赤らめて謝罪する私に彼の優しい手が頭を撫でる。


「いい加減馴れろ。それに怒ってるわけじゃねぇんだから謝るな。」


彼は、歳三さんは優しい笑みを浮かべて言ってくれる。


「はい。」


「なぁ、千鶴。今日は俺にとって特別な日なんだが…覚えてるか?」

彼の言わんとする事は私もわかっていた。


「覚えてますよ。歳三さん。」


私は袂から小さな包みを取り出して彼に手渡す。


「開けてもいいのか?」


「もちろんです。歳三さんに贈ったものなんですから。」


彼は包みを開けて中をみると目を細める。


「桜か。」


「贅沢なものはまだ贈る事ができませんから、見よう見まねでハンケチーフを作ってみたんです。最後に桜の花を刺繍してみました。」


「最近、夜な夜な布団を抜け出して起きてたのはこのためか…。」


「早くしないと間に合わないですから。」


私が微笑んで言うと。


歳三さんの両腕が私を引き寄せて抱き締める。


「無理しやがって。でも、ありがとうな千鶴。今日は今まで生きてきた中で最高の特別な日だ。大事に使わせてもらう。」


言うと両腕に少し力がはいりしっかりと抱き締められた。


「歳三さん、おめでとうございます。生まれてきてくれて、私を妻にしてくれてありがとうございます。これからも私を離さないでくださいね。」


耳元で彼は軽く息をはいて甘く囁くように言う。


「当たり前だ。手離さねぇよ。お前は俺のものなんだからな。」


「はい。」


私が返事をすると彼はゆっくり体を離し、今度は深く口づけをくれた。


羅刹となり幾度となく戦った彼の命がどこまでもつのかわからない。


でも、彼が生きている間はまた、彼の特別な日がきたら私は何度でも同じ言葉を囁く。


貴方を愛しているから、死が二人を別つその時まで。


END

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