終わりだお!『居場所』(薄桜鬼 土方 千鶴 幹部隊士)
早朝、千鶴の部屋を訪ねるものがいた。
新選組副長土方歳三は千鶴の部屋の襖を開けて呆れる。
千鶴の周りには幹部隊士達がいて、壁に寄りかかり眠るもの、その膝に頭を乗せて完全に寝転んで眠る者、隊服を纏い胡座をかいて今にも千鶴の足の上にたおれこみそうな者。
ただ、二人だけ土方の気配に気がついていたのかこちらに目を向ける。
「副長。」
短く斉藤が言う。
「あれ、土方さん、どうしたんですか?朝早くから鍋なんか抱えて。」
沖田は土方の持つ鍋を見てニヤリとする。
「こっこれは・・・近藤さんから頼まれたんだよっ。てか、てめぇらこそ何してやがるっ!!」
「何って、千鶴ちゃんの看病ですけど?他に何に見えるんですか?」
「やかましいっ!!おいっ、起きろっ!!新八!!左之っ!!平助っ!!」
土方は大声で彼らを呼び起こす。
その声にビクっとして三人は慌てて居ずまいを正す。
「ああ、土方さん。」
「土方さんじゃねぇよ、お前らっ。仮にも男のなりしてるがこいつは女だ!!女の部屋で眠るたぁどういう了見だっ!!」
「あのっ、副長。」
斉藤が申し訳なさそうに呼ぶ。
「なんだっ、斉藤!」
「あのっ、雪村が・・・。」
斉藤に言われ土方は千鶴の方を見ると目をぱちくりさせながら千鶴が起き上がっていた。
「あ~あ、土方さんが大声出すから千鶴ちゃんがおきちゃったじゃないですかぁ。」
「ちっ・・。」
土方は小さく舌うちをする。
「あのっ・・・朝っぱらからみなさん、どうしたんですか?」
千鶴はビクビクしながら尋ねる。
「お前は・・・。」
土方は言葉を切る。
そうして千鶴に目をやり言う。
「千鶴、お前は少し無防備すぎる。」
「はい?」
「自室にこれだけの男がいるってのに無防備に寝すぎなんだよ。少しは危機感というやつをだな・・・。」
土方の言葉を遮るように藤堂が言葉を挟む。
「千鶴は悪くねぇって、土方さん。」
それに便乗するように永倉が続く。
「そうそう、俺達が勝手に部屋にきただけだしなぁ。」
「それに、何かするつもりならとっくの昔にやってるって・・んっん~~~っと。」
言いながら原田は体を伸ばす。
「てめぇらなぁ!!」
「えっと、すみません。私が熱なんか出したりしたから・・・お役にたてない上に迷惑ばかりかけてすみません。」
千鶴が謝罪の言葉を口にする。
「ほんと、君が熱なんてださなきゃね。僕達もこんなに土方さんに怒られる事もなかったんだけど。」
「総司、雪村とて体調を崩したくて崩したのではあるまい。」
「そうだぜ。まぁ、こいつなりに神経とぎすまして毎日すごしてたんだ。疲れもたまるぜ、な、千鶴。」
斎藤と原田が千鶴を弁護する。
「千鶴。」
土方が呼ぶ。
「はい…。」
「おめぇが役にたってないとは思っちゃいねぇよ。それなりに助かってる事もある。だから、疲れてる時は休め。それもまた、役にたつって事だろう。俺は兎も角、こいつらにとっちゃな。」
そう言うと土方は呆れ笑顔で幹部達の顔をみやる。
「そうだぜ、千鶴。お前が元気ないと俺も寂しいっつうか。」
藤堂がモゴモゴとなりながら言う。
「そうだぜぇ、千鶴ちゃんいないと華がなくていけねぇ。」
永倉がニッと笑って言う。
「僕は別に何とも思わないけど、敢えていうならからかう相手がいないのは嫌だなぁ。」
沖田の言葉に斎藤が返す。
「それを気にしていると言うのだ。」
「ふうん。じゃぁ、一くんも気にしてるって事か。」
「おっ、俺は別に、副長の方針にしたがっているだけだ。」
「まぁ、何だっていいんじゃないか。ここは、今、ちゃんと千鶴の居場所になってるわけだからよ。千鶴も遠慮なんかしてねぇで具合悪けりゃちゃんと言えよ、なっ。」
原田の「居場所になってる」という言葉に胸が温かくなった。
ちゃんと認めて貰えてるような気がした。
「ありがとう…ございます」
涙目になりながら千鶴は皆に向かって深々と頭を下げた。
「礼はいらねぇから早く良くなりやがれ。」
土方は声に優しさを含ませて言う。
「はい。」
千鶴は笑顔で答えた。
「ところで土方さん、さっきから大事に抱えてる鍋はなんだ?」
永倉が指を指して言う。
「あぁ、粥を作ってきたんだ。」
「あれっ、土方さん。それ近藤さんに頼まれたんじゃなかったんですか?」
沖田がニヤリ顔で言う。
「なっ、うるせぇっ。近藤さんに頼まれて仕方なく作っただけだっ。」
「へぇ、そうなんだぁ。」
沖田はニヤニヤ笑いながら言う。
「あぁ、そうだよ。」
土方はめんどくさそうに沖田に答える。
「まぁ、いいですけどね。あっ、一くん、今日は僕達が食事当番じゃなかったっけ?」
「はっ、そうだ。急ぐぞ総司。それでは副長失礼いたします。雪村、早くよくなれ。」
「はい。」
「千鶴ちゃん、また、後でね。」
沖田はいたずらっぽい笑顔で言う。
「はい。」
「総司っ、早くしろ。」
「はいはい。」
斎藤と沖田は食事の支度にむかった。
「じゃぁ、俺たちもいくか。」
「左之、稽古付き合えよ。」
「俺は遠慮しとく、平助に付き合ってもらえよ。」
「よぉし、平助っ、今日もいっちょもんでやるから付き合えっ。」
「今日こそは負けねぇかんな、新八っつあん。」
「おおよ、望むところだ。」
「やかましいんだよっ、てめぇら、さっさと稽古でもなんでも行きやがれっ。」
「土方さん、俺ぁ、メシが出来るまでもう少し休むわ。」
原田はそう言うと千鶴の顔を見て
「土方さんの粥食って今日は一日寝てろよ。まだ、顔が赤いからよ。」
「はい、ありがとうございます。」
千鶴の返事を聞くと原田はにっこりと優しく微笑むと部屋を後にした。
「んじゃな、千鶴ちゃんっ、いくぞっ、平助っ。」
そういうと永倉は部屋を出て行く。
「あっ、まてって新八っつあん。千鶴っ、またなっ!!」
藤堂もまた新八の後に続いてでていった。
残ったのは土方のみとなった。
「たくっ、あいつらは。」
いって、小さくため息をつくと千鶴のほうに向く。
「冷えちまったが、食うか?」
「はい、いただきます。」
「そうか。」
土方はゆっくりと座り鍋を置くと器に粥をよそい千鶴に手渡す。
「ありがとうございます、土方さん。」
「礼はいいからさっさと食え。」
「はい、いただきます。」
千鶴は一口粥を口に入れる。
「うまいか?」
土方は心配そうに顔をして聞く。
どうも、料理というものが苦手なのか不安らしかった。
「はい、おいしいです。」
「そうか。」
「はい。」
本当は少ししょっぱかったけど、敢えてそこにはふれなかった。
土方の優しさがうれしかったからだ。
千鶴はだまって粥をたいらげた。
「ありがとうございました。とてもおいしかったです。」
「おっおう。じゃぁ、千鶴、ゆっくり休め。俺はこれを下げて仕事にもどるからな。誰が来てもぜったいに今日は寝てるんだぞ。」
「はい。」
「それと、あんまり無理するんじゃねぇ。お前は、俺達が預かるときめた。だから、自分のできる範囲の事だけしてろ。無理に自分を追い込むんじゃねぇ。何かあれば俺に言え、できる事は何とかしてやるから。」
最後の言葉には土方なりの優しさが含まれていた。
「はいっ。」
千鶴の返事を聞くと土方はゆっくりと襖を閉めて出ていった。
千鶴は布団に横になる。
不思議と寂しさはなくなっていた。
皆が自分の事を認めていてくれた事が千鶴の心を暖かくしていた。
”今日はお言葉に甘えて休ませてもらおう。そして明日からまた頑張ろう。自分のできる事を精一杯やろう。”
そうして、千鶴は眠りについた。
まぁ、誰かしらきたりしてゆっくりとはいかなかったが・・・・・。
END