「君ノ記憶」
舞い落ちる花びらの中で私の頬を伝う雫。
あの日、二人で見上げていた景色の中に今、私はただ一人いる。
あの日、あなたを失ってから私は思い出すのが怖くて瞳を閉ざし心を閉ざし、あなたとの思い出をけそうとした。
その度にあなたとの事があふれ出してとまらなかった。
”「俺ぁ、まだ死なねぇよ。お前との生活を大事にしてぇからな。お前はすぐ泣くからな、尚更、一人にしておけねぇ。」
「俺は、春の月が好きだ。お前はそれに似ている。まさか、憧れて手に入らないと思っていた春の月をこの手に抱く事ができるなんてな。俺は幸せもんだな。」”
あなたの言葉一つ一つが私の胸で繰り返される。
あの日、初めて逢った時、ふと見せた月にてらされた悲しそうな横顔も今も覚えています。
抱きしめたいと願っても、もうあなたは隣にいない。
この景色を一人眺めていると涙が溢れてとまらないのです。
あなたの記憶を消し去るすべを私は知りません。
”「ずっと俺がお前を守ってやる。お前の涙も拭ってやる。」
「お前は俺のもんだろう。誰にもわたさねぇ。俺だけの春の月でいろ。」”
あなたの言葉を思い出す。
あなたの仕種を思い出す。
あなたの声が心に響く。
ずっと守ると誓ってくれたあなたは今はもういない。
ずっと離れないと誓って髪を撫でてくれたあなたはどこにもいない。
抱きしめた温もりはまだ、私の手の中に今も残っています。
忘れません。
忘れようとしたけど忘れられないなら忘れません。
幾たび季節が流れようとも私はあなたを忘れない。
あなたを想って生きて行きます。
きっと、あなたはこういうのでしょうね。
”「強情な女だな。だから江戸の女ってやつは困るんだよ。」”
あなたの困り顔が浮かんでまた、涙が溢れるけれど、忘れないいつまでも。
二度とこんなに人を愛する事はできないのだから。