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辞令 | #シロクマ文芸部

 「三月になったから、そろそろだね」
 貴子と美希は毎年この時期を楽しみにしている。約五年、直属上司の田中課長が異動してくれないのだ。これは長すぎる。金融機関である会社は短期の異動がつきものだ。まして総合職となれば絶対なのに……。

 田中課長はビジュアルも今ひとつだが、性格が悪かった。部下のミスにはネチネチといつまでも嫌味を言うし、部下の手柄は自分の手柄のように上司に報告する。

 「やった!田中異動だよ!」
 美希が飛んできて報告してくれた。
私たちは手を取り合い、その場をスキップしてぐるぐると回った。その時はお花畑にいたんだ確かに私たちは……。

 「ところで後任は誰なの?」
 「イケメン課長だったら最高なのに!」

 私たちは勝手な妄想を描いて、改めてパソコン内の通達を確認し、愕然とした。

 「げっ!鈴木が戻ってくる!」
 さっきまでお花畑にいた私たちは奈落の底に突き落とされた。鈴木は五年前にひどいパワハラ性格のために地方に飛ばされた男だったのだ。ビジュアルも田中よりずっと下である。

 「五年経てば許されるってことなの?」
 「あいつ、絶対に性格変わってないよね」

 その日は貴子も美希も口数少なく業務をこなした。四月からのこの職場のことを想像するとゲンナリだった。

 「イケメン課長どころか!鈴木かよ!」

 貴子と美希は大声で上司の悪口を言っていたが、同僚の誰しもがそれに同意していたに違いない。四月よ、どうか来ないでおくれ。

 (鈴木課長か……)




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小牧幸助さん
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