ショート小説「理想と現実の間」
私はある人に恋をした。入社4年目の年下くん。笑顔が素敵で、仕事もできて、優しい。私とは8歳の差がある。
私は地味で奥手な方だが、勇気を出して彼を食事に誘ってみた。すると快く承諾してくれて、今までに2回はデートに行けた。
次は3回目。その時に付き合ってほしいと告白するつもりなのだが、なかなか予定が合わなかった。
日が経ってどうしようか悩んでいると、たまたま仕事帰りの喫茶店で彼と一緒になれた。これは告白のチャンス。
彼が座っているところに合席させてもらい、話を切り出した。
「あの.…実はあなたと付き合いたいと思っていて.…」
「ああ、その話なんですけど」
彼も私のことは意識してくれていたらしい。ここまできたら交際確実だと思っていたが、彼の口から飛び出してきた言葉は予想外なものだった。
「付き合うっていう話..…最初に言っておくと、僕は今までに1人しか付き合ったことないんです。だから、結婚を前提に付き合うってことはできないっていうのをわかってもらえます?あなたは僕が最後の彼氏になったらいいなとか考えてるのかもしれないですけど、僕はまだこの年なんでそうはいきませんよ。あと、結婚のことを考えたら当然、子供のことも話題にせざるをえませんよね?でもあなたは出産するには年齢的にリスクが伴う。仮に来年に妊娠したとしても、もちろんリスクは高いし、育児も大変。出産は無理だから養子をもらうって言っても、それはそれで別の苦労がありますよ。そこまでのことを見込んで僕に付き合いたいって言ってくれてるんですかね?もしそこまで考えられないなら、もうちょっと現実みた方がいいですよ。」
これを聞いている時、彼の顔は普段とは全く違っていた。あの優しい笑顔は、気が効く年下くんはどこへ行ってしまったのか。
ああ、彼の方が何倍も、いや何百倍も上手だった。私はそこまで考えられなかった。
とりあえず目の前の幸せを掴むことに必死で、将来のことなんて二の次だった。
私はもう、結婚どころか彼氏すらできないのかもしれない。