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2020年マドックス賞はアンソニー・ファウチ氏ほか新型コロナをめぐる政治決断に影響を与えた2人に

2020年12月14日、科学誌「ネイチャー」と英慈善団体「センス・アバウト・サイエンス」が主催するジョン・マドックス賞が、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長と南アフリカの公衆衛生学者、サリム・アブドウル・カリム氏に与えられた。アフリカにおける新興感染症として発生したHIVエイズにはじまり新型コロナまで、感染症の問題について科学に基づいた発言を続け、政治決断に影響を与えたという功績を評しての授賞だ。

ジョン・マドックス賞はノーベル医学生理学賞のような科学賞・医学賞ではない。困難や攻撃に遭いながらも、多くの科学者が口をつぐんでしまうような高度に政治化された科学の問題について、科学に基づく発言を続けた人たちに与えられる賞である。わたしも2017年、子宮頸がんワクチン問題に関する同様の功績が評価され、同賞を受けた。

アンソニー・ファウチ氏と言えば、「新型コロナはインフルエンザと同じ」と言い続けるトランプ大統領のうしろで隠れるように発言し、発言を遮られ、発言を否定されてきた姿を思い出す人も多いだろう。

受賞スピーチでファウチ氏はこう言っている。

「科学をねじ曲げようとするプレッシャーは非常に大きいが、大切なのは、敵対するのでも立ち去るのでもなくのでもなく、発言し続けることだ」

ファウチ氏の長年の同僚であり友人でもあり共同受賞者のサリム・アブドウル・カリム氏もこう語った。

「最大の問題はHIVエイズの存在を否定する人が多くいたことだ。否定するだけならいい、問題はそのことによって起きる悲惨な結末だった。それは『新型コロナはインフルエンザと同じ』という人が多くいる現状と似ている。それでも大事なのは科学に誠実であることだ」

子宮頸がんワクチンにしろ新型コロナにしろ、恐怖や怒り、不安といったネガティブな感情は広がりやすく、政治利用されやすい。一般市民も、病気から市民を守るべき立場にいる政府も、科学的根拠に乏しい自分に都合の良い判断を優先させがちだ。

新型コロナは人類未経験の新しいウイルスだけに、エビデンス(科学的証拠)はいつも錯綜している。日々提示され続けるエビデンスに応じ、発言や評価を常に変えていかなければならないという難しい状況の中、批判や攻撃、ひいては脅迫を免れることは難しい。

マスクの推奨ひとつとってもそうだ。当初はファウチ氏も「飛沫が飛ばなければうつらないのだから症状のない人のマスクは要らない」としていた。ところが、新型コロナは飛沫感染ではなく、空気感染することが明らかになったことで推奨を変えたことで、発言に一貫性が無いとして批判を浴びた。一方、政治的なプレッシャーからか、CDCもNIAIDも新型コロナが空気感染するという事実を認めるのに時間がかかった。その間、アメリカは取り返しのつかないほど多くの命を失った。

世界で160万人が亡くなってもまだ終わる気配の見えないパンデミック。たとえそれが受け入れがたい現実だとしても、わたしたちはしっかりと目を開き、耳を傾けるべき人を選んで、誤った判断で自分や他人の健康や命を損なうことのないよう暮らしていくことが大切だ。

ファウチ氏はスピーチをこう締めくくっている。

「科学は私たちが直面する数々の困難を消滅させ、終わらせるための手段でだ。いま私たちは歴史的なパンデミックにおける歴史的な瞬間にいる。2900万回分のファイザーのワクチンが接種されようとしている。これは、今から何段階も何段階も重ねていくパンデミック収束のプロセスの『最初の一歩』にすぎない」

センス・アバウト・サイエンスの代表トレイシー・ブラウンによれば、ジョン・マドックス賞は通常、すでに公衆衛生の分野で確たる地位を築いている人に与えられることはない。しかし、今年は彼らの努力と公衆衛生に与える影響の大きさを考慮し、例外とするとした。

ジョン・マドックス賞そのものが政治的になることは決して好ましいとは言えない。しかし、過去の受賞者のひとりとして、現在のパンデミックについてささやかながら発言を続けているひとりとしても、パンデミック収束に全力を注いでいる2人のスター科学者にこの賞が与えられたことを誇らしく思う。

今年のマドックス賞授賞式はオンラインで行われた。
ファウチ氏の授賞スピーチは22”12~

2017年、わたしのジョン・マドックス賞受賞スピーチはこちらからお読みいただけます。

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