見出し画像

コーヒーの香りがしなかった朝

パンデミック以降、パンを買わなくなった。
自分で焼くようになったからだ。

きっかけは、ニューヨークタイムズが取材したサリバン通りベーカリーの「捏ねないパン」のレシピ動画だ。

ご主人のJim Laheyさんが「世界中のパン屋はこれだけのことしかやってない」「5歳児にも、いや3歳児にも作れる」と言っているとおり、レシピは、粉と水とイーストと塩を計って混ぜ、放置したものを焼くだけだ。この動画のお陰で、お店で買うしかないと思っていた表面のパリッとしたプロっぽいパンが、誰にでも簡単に焼けることを知った。

文系女医心をくすぐるパン焼き

「発酵」や「焼き」で美味しさの変わってくるパンは、大雑把なのにちょっとだけ理屈っぽい文系女医心をくすぐる。レシピどおりに作る必要はない。水、塩、イースト、小麦粉とグルテン、一次発酵・二次発酵の役割をざっくり理解したところで、粉を変えバターを変え、捏ねたり捏ねなかったり、塩や水の割合を調整したり、発酵時間やオーブンの温度を微妙に変えたりと、わたしなりに「研究」を重ねてきた。

研究の結果、捏ねない「放置パン」では、粉を混ぜる過程を日本の菜箸で適当にまぜるだけにしておくのがいちばんうまくいくことも分かった。

バゲットやクロワッサンにはじまり、パンといえば何でも美味しいフランスを旅行した時だけは、毎日パン屋さんで大量のパンを買った。それ以外は旅先でも小麦粉とイーストを買ってパンを焼いた。(ヨーロッパで民泊するとほとんどの場合、オーブンがある)

ある日、クランベリーとクルミのパンを焼いた。

と言っても、ニューヨークタイムズのレシピに、クランベリーと刻んだクルミを放り込んだだけの手のかかかっていないパンだけれど。

焼けたパンを食べて

ここから先は

2,951字 / 1画像

¥ 980

正しい情報発信を続けていかれるよう、購読・サポートで応援していただけると嬉しいです!