PCR信仰と予言の自己成就
2020年、日本の新型コロナ対策で最も特徴的だったのは、PCR検査の実施件数へのこだわりでした。
WHOは3月17日、「感染を疑う人」を徹底的に追跡して流行状況を把握することを目的に、「検査、検査、検査」と呼びかけました。これを「感染を疑う理由のない無症状の人もみな検査しろということだ」と曲解して報じたメディアもありましたが、WHOは翌18日の会見で、「検査、隔離、追跡」と言いかえています。
MERS(中東呼吸器症候群)を契機としてPCR検査態勢の整った韓国、SARS(重症急性呼吸器症候群)を経験して似た状況にあった中国や台湾とは異なり、日本のPCR検査キャパシティはもともと決して高くはありませんでした。そのこともあって日本では、PCR検査のキャパシティを上げつつも、クラスター(感染者集団)と重症者への対策を中心に、医師が必要と判断した場合に限ってPCR検査を実施する戦略をとることにしたのです。
2月当初、1日500件以下しか実施されていなかったPCR検査実施件数は、5月には1日8000件超に。(8月7日現在では5万超)
日本のPCR検査キャパシティが短期間で大きく向上したことに間違いはありませんでしたが、3月に入る頃からメディアには「PCRが足りないと大変なことになる!」と煽る〝専門家〟が多数登場するようになりました。
その結果、検査の必要はないのに「念のため」に検査を受けたいという人たちが帰国者・接触者センターの電話をパンクさせ、救急車を呼び、医療施設や保健所に押しかけ、ただでさえ不慣れな院内感染対策に追われる医療現場をさらに逼迫させました。
イタリア、アメリカ、スペインなど、流行爆発が起きて医療キャパシティを超え医療崩壊を起こした国はいくつもありましたが、「PCR信仰による人災」ともいうべき医療崩壊が心配された国は、世界でも日本くらいのものです。
根拠薄弱な思い込みや噂であっても人々がそれを信じて行動することにより、予言通りの現実が作られることを、社会学では「予言の自己成就」と呼んでいます。
アメリカの社会学者ロバート・マートンが提示した概念で、たとえば、
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